「貴女達、上手くいってるの?」
オペラを食べようとフォークを握った瞬間だった。
顔を上げると目の前に居る友人、リビー・レストンが頬杖をついて私を見つめている。
「まあ、別れようとは言われてないけど」
そう答えて視線をオペラに戻し、綺麗な表面にフォークを入れていく。
一口食べて、その美味しさに小さな幸せを噛み締める。
ホグワーツのお菓子も勿論美味しいけれどマグルの世界で有名なお店のケーキはまた格別だ。
今度来た時は先程どちらにしようかと悩んでいた林檎のシブーストを食べてみようか。
そんな事を考えていたらリビーがそうじゃなくて、と声を荒げる。
「今日、引っ越しの日じゃないの?」
「うん。夕方出発なんだって」
「見送りに行かなくて良いの?」
「どうして?」
「貴女が彼女だからよ!」
リビーはそう言ってカップの中の紅茶を一気に飲み干した。
熱い筈なのに、平気そうな顔でポットを持ち上げる。
「だって、今日はリビーと約束してたもの」
「私となんて幾らでも会えるじゃない。何も言われなかったの?」
「リビーと約束があるって言ったら行っておいでって」
「あ、そ」
呆れたように溜息を吐いてリビーはやっとオペラに手を付けた。
ああ全く、だなんてぶつぶつ呟く声が聞こえてくる。
「そうよ、大体ホグワーツに居る時だって、ホグズミードには一緒に行かないし、一緒に居ると思えば勉強ばっかりしてるし、それに最後の日!駅で普通にバイバイって何なのよ!ハグとかキスとかしなさいよ!」
「落ち着いてリビー」
どうどう、と言ったら私は動物じゃない!と怒られてしまった。
確かにリビーの言う通りなので何も反論する事は無い。
紅茶を飲みながらどうしたものかと考えてみる。
ああ、やっぱり有名なお店だけあって紅茶もとても美味しい。
魔法界とは違って冷めてしまうのが残念だ。
「名前、今紅茶美味しいとか考えてた?」
「あ、バレた?」
「バレた。にこにこしてるから直ぐ解るわよ」
そして二回目の溜息を吐いたリビーはまたカップを空にする。
にこにこしていただろうか、と軽く自分の頬を摘む。
私の考えを見抜けたのは長年の付き合いの賜物だと思う。
リビーとはホグワーツ入学以来の仲で寮でも同室だった。
「……とりあえず、見送り位行ってきなさいよ。別に名前が居たってビルもチャーリー達も気にしないでしょ」
「でも、リビーと約束、」
「行きなさい!良いから!」
「はーい」
言葉を遮ってまで行きなさいと言われてしまったら素直に頷くしかない。
出発するという時間まではまだ余裕があるからオペラと紅茶をじっくり味わえる。
ふわりと広がる甘さを堪能していたら三回目の溜息が聞こえた。
(20140509)
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