昼食を食べ終わり、ビルとソファーに座りボーッとテレビを眺める。
一人暮らしの私の部屋にテレビが無いから見るのはとても久しぶり。
「父さんが見たがるだろうな」
「そうね、確かに。でも、アーサーさんはパソコンの方が喜びそう」
「どっちも大喜びだよ」
そうだね、と呟くとテレビの中でキャラクターが踊り始めた。
昔は当たり前のように見ていたけれど今はあんまり惹かれない。
やはり魔法界での生活が長いせいだろうか。
だから偶にジッと画面を見るビルを盗み見る。
アーサーさんが喜ぶと言いながらビルの目もキラキラしていた。
そういえばビルは私の部屋の冷蔵庫も真剣に見ていた事がある。
一人暮らし用だからあんまり立派な物では無い。
扉にマグネットで手紙やレシピが貼ってあるくらいのシンプルな物。
それでもビルにとっては馴染みは無い物だ。
改めて私とビルは育った環境が違うのだと気付く。
盗み見るのも何だかつまらなくなってポニーテールに手を伸ばす。
根元の方で束を三つに分けようとしたら手を掴まれた。
「退屈?」
「まあ、少しね」
「じゃあ、ちょっと大事な話をしよう」
「大事な話?」
ビルが一度頷いてテレビから私へと向き直る。
大事な話、という言葉に私も姿勢を正す。
何だか変に緊張してしまうのは仕方がないと思う。
「一年、離れて生活したよね」
「うん」
「不安とか心配とかそういうのは、一年前に言った通り無かったんだ。あ、勿論浮気の心配もね」
それは一年前の出発の日にビルが言った言葉だった。
私も同じ考えだった事をハッキリ覚えている。
それに直ぐ目の前に迫る新しい環境の事で精一杯だった。
先を促すようにビルの目を見返す。
するとビルは一度目を伏せて、私の手を握った。
「ただ、寂しかった。離れてるのは嫌だ」
「ビル、」
「名前には名前の生活があるっていうのは解ってる。これは単なる我儘っていうのも解ってる」
握られている手に力が入れられる。
私の心臓は今までに無い程煩くて、静まりそうもない。
ビルがこれから何を言おうとしているのか解るような気もするし解らないような気もする。
けれど、今はそんな事よりも目を伏せたまま話すビルが、無性に愛しくて堪らない。
「今度エジプトに戻る時、一緒に来て欲しい」
しっかりと私の目を見てビルがそう言った。
緊張が繋がっている手から伝わって来る。
どう言葉を返せば良いだろう。
どんな言葉ならこの気持ちが伝わるのか。
きっとどの言葉も正解でどの言葉も不正解だ。
「間に合うか解らないわ。でも、なるべく早くしなくちゃ」
「え?」
「だって、私もビルと一緒が良いもの」
繋がっている手が引かれて、苦しいくらいに抱き締められる。
嬉しそうと言うよりはホッとしたような声でビルが良かったと呟く。
そんな様子が嬉しくて、そして愛しい。
一緒に居られるのならこれからゆっくり伝えていこう。
(20141123)
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