ホグズミードの事を思い出すとにやにやしてしまう。
カフェを出た瞬間二人はウッドに連れて行かれてしまったけれど、ほんの少しでも一緒の時間を過ごせただけで充分だった。
最近、よく話すようになって毎日が楽しくて堪らない。
しかもジョージの方から話し掛けてくれる。
もうすぐ今年の運を使い果たしてしまうんじゃないかと何回も思った。
使い果たしてしまったとしても、それはそれで良いと思える。
幸せの数が一年の中で決まっているとして、好きな人に与えて貰った幸せならば、そんなに良い事は無い。


また緩んでしまっていた顔を引き締めて本の文字を追い掛ける。
資料になるからと読む事を課題にされるとなかなか進まない。
純粋に興味を持てば全く苦にはならないのに。
なかなか頭に入らない文字を繰り返し繰り返し眺める。


「名前ちゃん」


プツンと集中が切れるのは簡単だった。
元々集中出来ていたかと言われれば別ではあるけれど。
ジョージに話し掛けられたら本なんてどうでも良い。
顔を上げるとちょうど向かい側にジョージが座るところだった。


「魔法薬のレポート終わってる?」

「うん、終わってる、けど」

「見せて?」

「あ、レポートなら、ロッティの方が優秀だよ」

「ロッティが俺に見せてくれると思うか?」


隣に座っているロッティをチラリと見るとジョージを威嚇するように睨んでいる。
そういえば、ロッティは私やキャスでさえレポートを見せてはくれない。
教えてくれたりはするけれど、レポートは自分でやりなさいという考えだ。


「名前、ジョージに教えてあげたら良いじゃない」

「え?キャス、何言って、」

「私も良い考えだと思うわ。本を読むのは捗っていないみたいだし」

「あ、本当?頼むよ名前ちゃん」


畳み掛けるようにジョージに頼まれては断れない。
邪魔になるからと素早く荷物を纏めてキャスとロッティは部屋へと戻って行った。
教えてあげる、なんて言われても、きっとジョージの方が頭が良い。
私なんかが教えてあげられる事は無いんじゃないだろうか。


「あ、あの、これレポート」

「教えてくれないの?」


ロッティに怒られそうだけど、レポートを写して貰おうと思い差し出す。
けれどジョージは私を見てニヤニヤ笑いながらそう言った。
教えてと言われて確かに頷いたけれど、誰かに教えた事なんて無い。
え、と戸惑った声が出て狼狽えているとジョージがクスクス笑い出した。


「名前、小動物みたいだな」

「え?小動物?」

「うん。レポート見せて貰って良い?」

「う、うん。どうぞ」

「サンキュ、名前」


ジョージは私の頭を撫でてレポートを書き始める。
からかわれていたのか、と気が付いた時にはもう遅い。
珍しく真面目な顔で羽根ペンを動かすジョージには話し掛けられなかった。
仕方無く先程まで眺めていた本にまた向かい合う。
けれど何だか先程よりも言葉が入っていかない気がする。
それはやっぱりジョージが向かい側に座っているからだろうか。


本を読む事を放棄した私はやる事が無くなってしまった。
ジョージは珍しく真剣な顔をしているから話し掛けられない。
相変わらずジョージの前では上手く言葉も出て来なかったりする。
やる事は無いかと考えてみてもやっぱり本が浮かぶだけだった。
どうしようか、と考えているとジョージの手が目に入る。
大きくてゴツゴツとしていて男の人の手だ。
小さな傷があるのは悪戯の時に出来た傷だろう。
一般的に見て綺麗だとは言えないけれど、私から見れば充分綺麗な手だった。


「名前、そんなに見つめられたら穴が空いちゃうぜ?」

「え!あ、あの、そういう訳じゃ……えっと、ごめんなさい!」

「あ、名前!」


ジョージが私を呼び止める声は聞こえるけれど、足を止められない。
自分の部屋に戻って扉を閉めるとやっと周囲の音を聞く余裕が出てきた。
階段を駆け上ったせいで心臓の音がとても煩い。
次ジョージに会う時どんな顔をすれば良いんだろう。




(20131205)
8
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -