あの日以来私の枕元には薔薇が一輪飾られている。
造花だから特に枯れる心配も無いのが嬉しくて堪らない。
あの現象はたった一度きりだったらしく、爆発したりはしなかった。
それでもあの幸せな出来事は今思い出してもニヤけてしまう。
変身術もやっぱり杖の振り方が駄目だったらしく、上手くいっている。


「名前、行くわよ」

「うん、もうちょっと待ってロッティ」


目の前にあるキャラメルはどちらも新商品だ。
ミントとシナモンどちらにしようかかなり迷う。
ロッティはそれを見てずっと呆れた顔をしている。
けれど付き合ってくれているロッティは優しい。


結局悩んでいた私をずっと見ていたお店の人が半分ずつ売ってくれた。
散々お礼を言ってハニーデュークスを後にしてどうしようか相談しながら歩く。
途中で恋人と一緒のキャスを見掛けたけれど、とても声は掛けられなかった。


「キャス、幸せそうだったね」

「そうね。ジョージを見てる名前みたいだったわ」

「えっ?な、何言い出すのロッティ!」

「本当の事じゃない」


慌てて周りを確認したけれどジョージの姿は無い。
ホッと胸を撫で下ろしているとロッティが何かを呟いた。
とても小さな声だったから聞き取れず、首を傾げる。
けれど何でも無いと言って腕を掴まれた。
そのままロッティがどんどん歩いて行くので聞くに聞けない。
小さなカフェに入るまでロッティは振り向きも足を止める事は無かった。


「美味しそう!」

「良かったわね」


紅茶と共に運ばれてきたトライフルを一口食べる。
ホグワーツで出されはするのだけどお店で食べるのはまた気分が違う。
勿論、ホグワーツで出るデザートはお店に負けない位美味しい。
このお店のも美味しくて幸せな気分で一杯になる。


「あ、フレッドとジョージ」

「え?」

「ほら、あそこ」


ロッティが指差した先には確かにフレッドとジョージの姿があった。
立ち止まって何やらキョロキョロしている。
不意にフレッドと目が合って手を振られた。
ジョージもそれに気付いて同じように手を振る。
振り返そうか悩んでいると二人は歩き出して何と店内へと入ってきた。


「やあ、名字にロッティじゃないか」

「僕達が相席しても良いかい?」

「私は構わないけど。名前は?」


慌てて首を縦に振るとニッと笑った二人がそれぞれの隣に座る。
フレッドはロッティの隣、そしてジョージは私の隣。
途端に緊張してしまってとにかくトライフルを口に運ぶ。
味なんて二の次で、ただただ口と手を動かした。


「名前、それ美味い?」

「あ、うん」

「ちょっとちょーだい」

「え?」


一瞬何が起きたか解らず、呆然とスプーンを見つめる。
隣でジョージが美味いなと言う声が聞こえるけれど理解が追い付かない。
今、ジョージが横から私のトライフルを一口食べたのだ。
やっと理解した瞬間爆発してしまうんじゃないかと思う程体温が上がる。
当然顔も赤いだろうと俯いて顔を隠す。
ジョージはなんて心臓に悪い事をするのだろう。


「名前?」

「あ、残り、あげるよ」

「え?良いのか?名前のだろ?」

「だ、大丈夫!ハニーデュークスでお菓子買ったし!」

「……そっか、さんきゅ」


ニコッと笑った顔を見てまた俯く事になってしまった。
トライフルはまだ半分残っていたけれど食べられそうに無い。
ジョージが居る事でもう胸が一杯だった。




(20131117)
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