本棚から目当ての本を取り出して席に戻る。
キャスは休日だから、とレイブンクローの恋人の所へ会いに行ってしまったし、ロッティは監督生の集まりだと行ってしまった。
それを知ったキャスは残ろうかと言ってくれたけれど、恋人に会える機会を無駄にして欲しくない。
それに良い機会だから復習をすると言って図書館に来たものの、苦手な変身術を前には気が重くなるだけだった。
幸い筆記は必死に頭に叩き込めば済むのでやるだけやっておいて損は無い。
苦手だ苦手だと言っているばかりではいけない、と覚悟を決めて本を開いた。


「お隣良いですか、お嬢さん?」

「では私は此方側に宜しいでしょうか?」

「え?」


両側から聞こえた声に心臓が跳ね上がり、そのままの速度を保ったまま動く。
返事をするよりも早く二人は座っていて私の持ってきた本の山から一冊ずつ抜き取った。
フレッドは薬草の、ジョージは魔法薬の本をそれぞれ捲っている。


「名前、この本少し借りても良いか?」

「あ、うん、良いよ」

「助かるよ名字」


ポンと肩に手を置いてウインクするとフレッドは本棚の向こうへ消えた。
勉強するのであればジョージも行く筈だからきっと違うのだろう。
それよりもどうしてジョージが残ったのか、其方の方が重要だ。
いつの間にかまた抜き取った本を片手で捲りながら目を通している。


「あの、ジョージ」

「シッ!」


意を決して名前を呼んだと言うのに人差し指を立てて唇に当てたジョージによって口を閉じる事になった。
ジョージは素直に黙った私の方を見て私の後ろの方を指す。
それに従って後ろを見るとマダム・ピンスが女の子のグループに図書館では静かにと注意しているところだった。
多分女の子のグループよりマダム・ピンスの声の方が大きいんじゃないかと思う。


「今日彼女はとっても機嫌が悪いのさ」

「え?」

「お気に入りの本が汚れたとか何とか……犯人は誰かのペットじゃないかと思うけどね」


マダム・ピンスが去っていったのを確認したジョージが小声でそう言った。
面倒だから見つかりたくないのだと言ったのはやっぱり犯人と言われるからだろうか。


「名前は、今日は勉強するのか?」

「うん、あの、私変身術苦手だから、筆記だけでもって」

「……次の授業で呪文を唱える時に杖をこう、円を描くように振ってみろよ」

「え?」

「きっと上手くいくぜ。俺が保証する」


じゃあな、とウインクをしてジョージもフレッドと同じ方へ歩いていった。
次の変身術の授業は確か水曜日だからまだまだ先。
試してみようと慌てて羊皮紙の端に今の言葉をメモした。




(20131117)
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