重さが増した鞄のベルトが肩に食い込んで痛い。
古代ルーン文字学の資料になりそうな本が数冊増えただけなのに。
仕方無く鞄から取り出して腕に抱えると肩は楽になった。
一度談話室に帰ろうかと思ったけど直に夕食の時間。
グリフィンドール塔へ戻るよりもこのまま大広間へ向かった方が良いだろう。


曲がり角を曲がろうとすると急に誰かが現れてもう少しでぶつかるかと思った。
相手が私の肩を支えてくれてぶつからずに済んだけど、抱えていた本は全て床へ。
とりあえずお礼と謝罪をしなければ、と顔を上げて頭が真っ白になった。


「悪い、よく見てなくて。本、大丈夫か?」

「あ、大丈夫、多分」


慌てて床に落ちた事で散らばった本を拾って抱え直す。
けれど今度は鞄がずり落ちてしまった。
何てタイミングなんだ、と恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら鞄を拾う。
チラッとジョージを見ると笑いを堪えていて、此処から今直ぐ逃げ出したくなった。


「ああ、ごめん。タイミングバッチリだったから」

「だ、いじょうぶ」

「ごめんごめん。そんな顔すんなって」


鏡を見た訳じゃ無いから自分の表情なんて解らない。
でもとにかく熱いから私の顔は今真っ赤なんじゃないだろうか。
ジョージがまたごめんと謝るから首を横に振った。


「名字、大広間に行くのか?」

「うん」

「ふーん……じゃあ俺も行こうかな」


良い?と首を傾げて聞かれたら頷くしか無い。
緊張してしまうけど今はそれよりも嬉しかった。
勿論心臓はドキドキと騒がしくて仕方無い。
ジョージのいる右側に意識が全て持って行かれる。
フレッドを探していたらしいのだけど、大広間に行けば会える事に気が付いたらしい。
もっと上手く受け答えが出来たら良いのに。


「でも、名字が一人なんて珍しいな」

「あ、キャスとロッティは、占い学なの」

「あー。科目違うんだっけ?そうか、名字は数占いとルーン文字だったな」

「え?知ってる、の?」

「だって、いつも談話室でその二つ勉強してるだろ?」


ジョージと選択科目の話なんてした事は無い。
三年生になって科目が一つも被っていないと落胆した位だ。
談話室でも勉強している時にジョージと話した記憶は無い。
それに私は一日の殆どの時間をキャスかロッティと過ごしている。
ジョージの言うように一人で居る方が珍しいのだ。
それなのに談話室で勉強している内容まで知っているなんて。
別の意味でドキドキしてきた心臓の音は聞こえてしまわないだろうか。
そんな事を考えていたから、ジョージが立ち止まった事に気付くのが遅れてしまった。


「あのさ、俺前から聞きたかった事があるんだけど」

「なあに?」

「もしかして、俺の事苦手だったりする?」

「そっ、そんな事無いよ!」


そんな風に思われているのが嫌で頭を横に振って精一杯否定する。
笑い声が聞こえてジョージを見ると笑いを堪えていた。
ごめん、と謝りながらもまだ笑いを堪えている。
でも、とりあえず私がジョージを苦手としている訳では無い事は伝わったらしい。
気のせいで良かったよ、と笑って言ってくれたのが何よりの証拠だ。
普段からなのだけど、ジョージはよく笑う。
行こうか、と再び歩き出してからジョージが歩調を合わせてくれていると気付いた。


「そういえば、この間の薬草の本は、解決したの?」

「ああ、バッチリさ。ちょっと時間掛かったけど」

「そうなんだ」


あっという間に会話が終わってしまう。
必死に話題を探してみるけど、出て来たのは授業や課題の事ばかり。
こんな話題はジョージにはつまらないだけだろう。
結局ジョージがクィディッチの話をするのを相槌を打ちながら聞くだけ。
クィディッチのルールは知っていても細かい事になるとさっぱり解らない。
キャスに色々教えて貰った事もあるけど途中から呪文に聞こえてしまった。
気が付けば大広間に着いてしまって、テーブルの真ん中でフレッドがジョージを呼んでいる。
フレッドから少し離れた所にはキャスが居てニヤニヤと笑いながら私を見ていた。


「キャスが居るじゃないか。良かったな」

「あ、うん」

「またな、あー…名前」


私の頭を撫でてフレッドの所へ歩いていくジョージの背中を見つめる。
そして今名前を呼ばれたのだと気付いて色んな感情が押し寄せてきた。
叫び出したいような、走り出したいような、はたまた箒に乗って全速力で飛びたいような、そんな訳の解らない気分。




(20131101)
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