「ウィーズリー!余所見をしている暇があるなら練習なさい!」


突然のマクゴナガル先生の怒鳴り声に呪文を言い掛けていた私は舌を噛んでしまった。
お陰で兎に変わる筈だったクッションは真っ黒なふわふわの丸い耳が生えて不思議な事になっている。
そっと触るとピョコンと動いて思わず二、三歩後退ってしまった。


「あら、随分可愛い耳ね」

「呪文噛んじゃって…」

「どう見ても兎の耳では無いわね。ほら、これで良いわ」

「あ、有難うロッティ」


ロッティが杖でクッションを軽く叩くと耳は消えて元通りただのクッションに戻る。
先生の怒鳴り声で一瞬シンとなった教室は再び呪文を唱える声が飛び交い始めた。
私も気を取り直してクッションに向かって呪文を唱える。
また先生の怒鳴り声がしたけれど、今度はシンとなる事は無かった。


授業が終わって皆が素早く出て行くのに遅れて私は荷物を纏める。
それを見ていたマクゴナガル先生が急ぎなさいと言うので思わず謝ってしまう。
慌てて鞄に纏めた荷物を入れて教室から出る。
キャスとロッティは占い学があるから、ともう行ってしまったのでのんびり廊下を歩く。
私は今から数占い学だったのだけど、朝掲示板に休講だと貼り紙が貼られていた。
図書館に行って勉強しようか、それとも談話室で勉強しようか。
別れ道を前に悩んでいたら遠くから爆発音が聞こえてきた。
音のした方を見ると赤毛の二人とリー・ジョーダンがニヤニヤしながら走ってくる。


「あ、おい名字逃げた方が良いぞ!」

「今のフィルチはご機嫌だからな!」

「馬鹿!機嫌が悪いんだよ!」


突然の事に身動きが取れずにいるとあっという間に三人は見えなくなり、フィルチが現れた。
息を切らして走っていたフィルチの目が私を捕らえた瞬間立ち止まり呼吸を整えだす。


「あ、あの、大丈夫ですか?」

「アイツ等は、どっちへ、行った?」

「え?ええと、真っ直ぐです」

「嘘だったらタダじゃおかんぞ」


ギロリと目を動かして私を睨み付けてからフィルチは走り去った。
どうして私が睨み付けられなければならないのだ、と不満に思いながら息を吐いて心臓を落ち着かせる。
突然の事に加えてジョージに話し掛けられてしまった事に気が付いたのだ。
勿論同じ学年だし話をする機会は今までに何回もあったけどやっぱりドキドキしてしまう。
ジョージと話をするというのは私にとってとても緊張する事なのだ。


図書館に行く気が削がれてしまって談話室入ると、そこには上級生が何人か居るだけ。
暖炉の前の良い席はやっぱり空いていなくて、いつも座る談話室の隅のソファーに落ち着いた。
今年はOWLが控えているし、あまり勉強が得意ではないから今からコツコツやらなければ間に合わない。
必須科目はロッティが教えてくれるけど選択科目は自分の力で頑張らなければ。
古代ルーン文字学の教科書と辞書を取り出して先週やった内容を読む。


不意に気配を感じて顔を上げると赤毛が目に入った。
そんなまさか、と一度教科書を見てもう一度見てみる。
やはり間違い無くそこにはジョージが座っていた。
珍しく真剣な顔で何かの本を読んでいる。
ただでさえドキドキと煩い心臓が更に煩くなった。


「あ、悪い。邪魔した?」

「う、ううん。集中力が切れたところだったから」

「そっか、良かった。凄い真剣に読んでたからな」


にこっと笑ってジョージは読んでいた本を閉じる。
その表紙に薬草という文字が見えた。
私の方こそ邪魔をしてしまったんじゃ無いだろうか。
あんなにも真剣な顔で読んでいたのだから。


「あの、勉強、してたの?」

「ん?ああ、これか。新しいグッズのヒントを探してたんだ」

「そうなんだ…見つかりそう?」

「んー…微妙かな」


苦笑いをしてパラパラと本を捲り出す。
ゴツゴツとしていて大きな手が目に入った。
あの手がブラッジャーを打ち返すのがとてもかっこいい。
試合の時はいつも自然と目で追い掛けてしまう。
ジッと手を見つめていたらそういえばとジョージが切り出した。


「さっきは大丈夫だったか?」

「あ、うん、大丈夫」

「良かった。ちょっと心配だったんだ。フィルチはご機嫌だったからな」


安心した、と笑うジョージを見ていたらフィルチに睨まれた事なんて何でも無い事だと思えてくる。




(20131101)
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