気分は良くないけれど体調が悪い訳じゃ無いから休む訳にはいかない。
ジョージの前からあんな風に逃げてしまったのだ。
授業だって休んだらOWLに影響してしまうし、何より医務室に行けと言われてしまう。


「そんな顔しないの。どうせ会わなきゃいけないんだから」

「ロッティ、それフォローになってないわ」

「だって事実じゃない」

「そうだけど…あら、フレッドとジョージだわ」


キャスの言葉に顔を上げるとソファーに座っている二人が見えた。
咄嗟に背の高いロッティの後ろに隠れる。
まだ対面するには心の準備が出来ていないのに。


「ねえ名前、隠れても無駄だと思うわ」

「うん、私もそう思う。ロッティと先行ってるわね」

「え?そんな、二人とも待って、」

「おはよう名前ちゃん」

「あ…フレッド?」

「なんだ、やっぱりバレてるのか」


二人と入れ替わるように歩いてきたのはフレッドだった。
一瞬つまらなさそうな顔を浮かべて、けれど直ぐにニッと笑う。
チラリとジョージを見ると眠そうに欠伸をしている。


「はい、これ。ジョージが借りたままだって言うから」

「あ、レポート」

「名字、楽しくいこうぜ」

「え?」

「それ、気を付けろよ」


じゃあな、と言って去っていくフレッドに首を傾げた。
それと指差したのは私のレポート。
何かしたのかと広げると突然爆発した。
燃え上がって灰になり、そして消える。
私のレポートが!とフレッドを見るとニヤニヤ笑っていた。
口の動きだけで本物は此処だと言ってジョージを指差す。
まんまと騙されてしまい、何とも言えない気分になった。
ジョージと対面する勇気も無いし、さっさとキャスとロッティを追い掛けよう。




この時期、OWLの為に図書館に籠もる五年生は多い。
私達もそれは同じで机の上には本が積み上がっている。
時々ロッティに教えて貰う時以外会話は無い。
定期的にキャスの溜息は聞こえてくるけれど。


「名前、その本よりこっちの方が役に立ちそうよ」

「あ、本当だ。じゃあ、この本は返してくるね」

「ええ、お願い」


席を立つだけで少しの気分転換になる。
ずっと座っていたから足を動かすだけで違う。
本棚に本を戻してついでに他の本を物色する。
変身術の参考文献が足りないとロッティが言っていた。
何か良さそうなのがあれば良いのだけど。


「名字」

「わっ…フレッド!」

「おっと、大声出したら摘み出されるぜ?」


ニヤリと悪戯に笑うフレッドの言葉に慌てて口を押さえる。
そんな私に満足したように頷くフレッド。
元はと言えば突然目の前にフレッドが飛び出してきたせいだというのに。


「まあそう睨むなよ。可愛い顔が台無しだ」

「そんな事思ってない癖に」

「心外だな。本心なのに」

「お世辞言っても何も出ないわ」

「ジョージが言ってもそう言えるのかな、名前ちゃん?」


動揺して本棚に伸ばし掛けていた手が揺れた。
フレッドを見るとニヤニヤと笑っている。
ジョージにそっくりな顔で。
目が泳いでしまっているのが自分でも解る。


「良い事を教えてやろう」

「良い事?」

「ジョージが名字を探してる。そうだな…今頃こっちに向かってるんじゃないか?」

「え?何で?」

「それはお楽しみだよ」


パチンとウインクをしてフレッドは本棚の向こうへと消えた。
まだ私はジョージと向き合う勇気は無いのに。
でも、探してるだなんて言われて嬉しい気持ちもある。
ジョージに会いたいけれど会いたくない。
どうしようと悩んでいると、チラリと見える赤毛。
フレッドの言った通りこっちへ向かっていたらしい。


「見つけた。探したよ名前」

「あ、うん…フレッドから、聞いたよ」

「勉強中か。終わるまで待つよ」


え?と声を出す隙すら与えて貰えずにジョージに持っていた本を奪われた。
そのまま歩き出してしまうから後ろをついて行くしかない。
何故か私とキャスとロッティ、そしてジョージの四人になった。
正直勉強どころでは無いのだけどロッティの目が恐い。
何とか集中出来ますように、と心の中で呟いてから本の山から一冊取って開いた。




(20131219)
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