風が強いせいで雪が真横に飛んでいて視界は悪く、とても寒そうだ。
それでも今日は満月だからリーマスは叫びの屋敷に行かなければならない。
今日はリーマスが変身してしまう前に行って魔法を掛けた方が良いだろうか。
談話室の窓から外を眺めながらそんな事を考える。


チラリと暖炉を見れば名前がエバンズと編み物をしていた。
あのハロウィン以来名前は特に何もしてこない。
いつものスキンシップはしてくるけれど、至って平和だ。
悪魔が大人しくしているというのが少し恐ろしいけれど、平和ならそれで良い。
リーマスの事を誰かに話す様子も見られなかった。


「シリウス、僕は名前が羨ましいよ」


名前はリーマスの事を特に気にしている様子も無い。
出会った頃にはリーマスを獣人と言い明らかに見下していた。
もしかしたら今でも同じように思っているのかもしれない。
でも、リーマスと接しているのを見る限りそうは思えなかった。


「シリウス、僕は名前が羨ましいよ」


寧ろ仲良く話をしているのを見掛ける事がある。
名前はどうやらチョコレートが好きらしく、趣味が合うのだろう。
仲良く話をしている時は大抵チョコレートの話らしい。


「シリウス!」

「…ジェームズ!耳元で大声出すな!」

「君が僕を無視するからいけないんじゃないか!」

「お前のエバンズ話は今聞く気無いんだよ」

「酷い!それでも僕の親友かい?」


泣く真似を始めたジェームズは放っておく事にして暖炉を見る。
二人の手元にはそれぞれ違う色の毛糸があってどんどん形が出来上がっていく。
悪魔のくせに編み物をするなんて、やっぱり変な奴。


「ピーターは?」

「レポート出しに行ってるよ。もう直ぐ戻って来るんじゃない?それよりリリーはあのマフラー誰に編んでるんだろうね」

「さあ、知らねえけど…そういう事は名前に聞けよ」

「名前のマフラーは君のじゃない?グレーだし」


マフラーねぇ、と呟くと名前が振り向いた。
隣のエバンズに何かを話したと思ったら、エバンズはジェームズを睨み付ける。
それをプラスに捉えたジェームズが僕を見つめていると騒ぐ。
名前はにっこり微笑んでから編み物を再開した。


「可愛いんだけどなぁ…見た目は」

「可愛いって、名前の事?」


その言葉に思い切り振り返るとそこに居たピーターの肩が跳ねる。
心の中で呟いた筈なのに、どうやら声に出ていたらしい。


「ご、ごめん、シリウス」

「確かに名前は可愛いからね。リリーの次にだけど」


否定も面倒でジェームズを引き摺って男子寮へと向かう。
階段の直前で暖炉を盗み見れば名前が此方を見て笑っていた。




もうそろそろ良いだろう、と三人で談話室を抜け出す。
本当はもっと早く行きたかったのに今日に限って談話室にいつまでも人が居た。
少し急ぎ足で誰も居ない廊下を走る。
絵画が何だ何だと騒ぐのを背中で聞く。


「こんばんは」


明らかに絵画とは違う声に足を止める。
ジェームズとピーターは聞こえていないのか、どんどん進んでいく。
振り向くと貴族のドレスを着た名前が居た。
そのスカートだけは膝上までしか無いけれど。


「何してんだ」

「早く行かなくて良いの?半獣さんが待ってるわよ」

「そんな風に言うな!」


全然悪いと思っていない態度で名前は謝罪の言葉を口にする。
効くかなんて解らないけれど、一応杖だけは使えるように掴む。
初めて会った時に向けるなと言われた物。


「シリウス!早く!」

「ほら、ジェームズが呼んでるわ」

「…ああ、今行く」


急いでジェームズとピーターの元へ走る。
その横を走る名前のブーツの音が廊下に響く。
外に出て変身してからも名前は俺の隣を着いてくる。
四本足でかなりのスピードなのに平然と。


「校則違反よねぇ。まあ、初めてじゃないみたいだけど」


そう呟いた名前に低く唸ってもニッコリ笑うだけだった。
更には変身したリーマスを見てクスクスと笑う。
いつの間にかその瞳は茶色ではなく赤色に光っている。
面白そうに笑う名前の瞳には冷たい物が混じっている気がした。


ホグワーツへの道程を歩きながら名前にも気を配る。
相変わらずジェームズとピーターは名前には気付いていない。
名前が何か目眩ましでもしているのだろうか。
普通なら直ぐ後ろを歩いていれば気が付く筈だ。


談話室に入るや否や腕を引っ張られて後ろに倒れそうになる。
二人はそんな事には気付かないように階段の上へと消えた。


「やだ、そんな恐い顔しないでよ」

「してない」

「眉間に皺が寄ってるわよ」


ツンツンと額を突つく白い指を掴むと笑い声を上げる。
ん?と首を傾げる名前の瞳は相変わらず赤い。
名前の瞳が赤い時は何となく注意しなければいけないと思う。
悪魔の瞳が赤いのならばこの瞳の色はいつもの茶色と違って本物だ。


「大変ね、毎月。それにしても、人狼ってあんな感じなのね」

「…お前見た事あるだろ」

「魔法界の人狼は今日初めて見たわ」

「魔法界の?他にも人狼が居るのか?」

「居るわよ」


掴んでいた手を剥がされて逆に握られる。
瞬きをすると自分のベッドの上に居た。
ピーターの鼾が聞こえてくるから間違いない。
そういえば、今日は土曜日だった。


「それで?」

「ん?」

「俺を押し倒すより先に続きを話せよ!」

「え?それって話したら先に進んでも良いの?」


良くない!と怒鳴ると名前はまた恐いと言いながら笑う。
それでも手はしっかりと服のボタンを外していく。
慌てて手を掴んで辞めさせても既にはだけた部分を風が撫でる。


「私の知ってる人狼は変身するのは満月の夜だけじゃないわ。それに、変身した時だってあんな風に自我を失ったりしないもの」

「それって、人を襲ったりしないって事か?」

「無闇に襲ったりなんかしたら自分達の住処を無くすからね」


例えばリーマスがそういう種類の人狼だったらどうだろう。
今のように危険視されたり蔑まれたりしないだろうか。
もしかしたら今よりもっと自信を持てたりするのかもしれない。
人間を襲いさえしなければ忌み嫌われたりしなくなるだろうか。


「まあ、元々が違うんだけど。魔法界の人狼はベースが人間だけど私の知ってる人狼は狼がベースだもの」

「それは、リーマスはそうはなれないのか?」

「出来なくはないけど、シリウスはそれでも良いの?」

「は?」

「狼になるなら人間と関わらないように生きていくのよ」


そんなのはリーマスは望まないだろう。
それに、俺だってリーマスと関わらないなんて考えられない。


「残念ね。また別の願い事を考えて」

「…あれ本気だったのかよ」

「悪魔は約束を守るのよ」

「それよりお前早く出てけ。俺は眠いんだ」

「仕方無いなぁ。朝ご飯にはちゃんと来るのよ」


油断した瞬間に頬に名前の唇が触れてふわりと消えた。
諦めが早くなったのはやっぱり慣れたからだろうか。
溜息を吐いて布団に潜り込むと全く眠気が無い事に気付いた。
名前のせいだ、と呟きながらベッドのカーテンを開けると窓から天気の良さそうな空が見える。




(20130813)
8
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -