翌日、ここ暫く姿を見ていなかったクリーチャーを探していたら突然名前が目の前に姿を現した。
貴族服を着ているという事は他の人間には姿は見えない。
クリスマスだからやはり力が弱っていたりするんだろうか。
しかし顔色が悪いなんて事はなく、いつもと変わらない様に見える。


「名前、クリーチャー知らないか?」

「知らないわ」

「そうか。何処へ行ったのか」


この屋敷の中には居るだろうと思うが、なんせ部屋が多い。
この部屋には居ないかと見切りをつけて廊下へと向かうと名前もついてくる。
名前の履くブーツの踵が鳴らす音は他の人間には聞こえるんだろうか。
考えながら次の部屋へ入り、しゃがんで隙間を探し出すと名前が隣にしゃがみ込む。


「悪魔なら直ぐに解るんじゃないのか?」

「知りたい?」

「……いや、良い。自分で探す」

「えー。つまんないの」


不満そうにしながらも名前は棚の扉を開け、クリーチャーを呼ぶ。
先に見つけたら何かを要求されそうだと思いながら隙間を覗く。


「シリウス」

「ん?」

「クリスマスプレゼント有難う。貰えるなんて思ってなかったから驚いたわ」

「色々世話になってるから一応な」

「そういう、優しいところが好きよ」

「何だよ突然」


返事がない名前を見ると珍しくにっこり笑っていた。
いつにない反応を不気味に思いながら、見たのが初めてではない事を思い出す。
あの頃の名前は本当の意味で優しい年上の女性だった。
クリスマスに両親に秘密だと言ってレギュラスと一緒にマグルの街へ連れ出してくれた事がある。
それを今になって思い出すのも名前の魔法の影響なのだろう。
母親は知らなかっただろうが、父親は名前が俺達を連れ出した事を知っていたかもしれない。


「クリスマス、昔一緒に過ごしたよな」

「そうよ。シリウスとレギュラスがクリスマスプレゼントって花冠くれて。二人ともとっても可愛かったわ」

「それは記憶にないな」


本当にそんな事をしたかと記憶を探ってみる。
しかし思い当たらないのできっと名前が思い出させる気がないのだろう。
他にどんな出来事を忘れているのか気になるが知らない方が良い気もしてくる。


「居ないな」

「そうね」


クリーチャーを探すために適当に出した物を名前が片付け始めた。
別に片付けなくてもと思うが、言ったところで名前は手を止めないだろう。
かといって手伝う気にもならず、物が元に戻されていくのをただ眺める。
あれだけ片付けたと思っていてもこの屋敷にはまだまだ物があるらしい。


「貴方達を連れ出したのを、オリオンに話したら苦い顔してたわ」

「話したのか?」

「オリオンにだけね。ヴァルブルガに話したら怒りで爆発しちゃうもの」


その様子を想像するのは簡単だった。
そして恐らく悪いのは出来の悪い兄のせいだと罵られるのだろう。
名前に対しても怒るだろうが、名前は簡単になかった事にしてしまえる。
想像していたらクスクスと笑う名前の声が聞こえた。


「ヴァルブルガもちゃんと母親だったのよ。ただ、視野が狭かっただけで」

「視野が狭い、ね」

「そうよ。自分の信じるものに真っ直ぐに、貴方達を育てようとした。正しいかどうかは別としてね」

「……」

「あら、そんな顔しないで」


立ち上がった名前の手がこちらに伸びてくるのを払い落とす。
それを気にするでもなく名前は真っ直ぐ見つめてくる。
今は茶色の目がいつ赤く変わるかわからない。
そういえば、最近は赤く変わったところを見ていないような気がする。


「今は、何か願い事はないの?」

「願い事?」

「そう、願い事。昔みたいに」


その願い事は何でも叶えてくれる訳ではないだろう。
更に何の対価もなしにというわけでもないかもしれない。
そう考えると何かを願うなんて馬鹿馬鹿しくなってくる。
大体クリスマスに悪魔に願うだなんて変な話だ。


「キスしろとか言うんだろ」

「あら、言わないわよ。だって、シリウスからのクリスマスプレゼントはもう貰ったもの」


そう言うと名前は首もとがよく見えるように髪を持ち上げる。
そこにはクリスマスプレゼントとして送ったネックレス。
悪魔にクリスマスプレゼントってどうなんだと思いながら選んだ物だ。
好みなんて解らないから、以前のブローチと同じシリーズのネックレス。


「してたのかよ」

「せっかく貰ったんだもの。あの花冠も保管してあるのよ。持ってきましょうか?」

「……持ってこなくていい」


まだ保管してあるなんて思いもしなかった。
レギュラスが生きていたとしたらこればかりは同意見だっただろう。
そもそも、レギュラスは名前を覚えていたんだろうか。


「だからね、願い事一つだけ叶えてあげる」

「クリスマスプレゼントか?」

「そうよ」

「悪魔がか?」

「そうよ。おかしい?」

「おかしいだろ」


笑い出した名前に手を伸ばして頬に触れる。
昔と何ら変わりのない肌に何故か安心感を抱く。
小さな頃の記憶も学生時代の記憶もある今だからだろうか。
目の前の悪魔は気紛れに現れては消えていく。


「じゃあ、お前の作るサンドイッチが食いたい」

「そんなので良いの?」

「良い。美味いから、食いたい」


頬を軽く抓ると白い手が伸びてきて払われる。
しかし、直ぐに手を握られて甲に唇が押し当てられた。


「尊敬を表す。知ってる?」

「知ってる」

「流石ね。貴方は家紋がないから、甲だけど」

「いつの話だよ。大昔でも思い出したのか?」

「……そうかもね」


否定しなかったという事は、家紋の入った指輪にキスをするのが主流だった時代から生きているのが判明した事になる。
下手すると大昔のブラック家の人間とも関わりがあったりするのかもしれない。
流石にそれは聞いても答えないんだろうが。
或いは、魂と引き替えだと言いながら教えてくれるかもしれない。
悪魔に魂を渡そうなんて、そんな気はさらさらないが。


「やっぱり名前の年齢でも教えて貰おうか」

「シリウスったら、女性に年齢を尋ねるもんじゃないわ」

「悪魔のくせに」

「悪魔でも女性だもの。さて、シリウスの願い通りとびっきり美味しいサンドイッチ作らなくっちゃ!」


言い終わるや否や名前は姿を消して、部屋に一人になった。
途端にこの屋敷にたった一人のような気持ちに襲われる。
階下には人が居るのにこんな気分になるのは過去を思い出したからだろうか。




(20181220)
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