クリスマス休暇が近付いてきたある日、名前が姿を消した。
日頃から居たり居なかったりだったけれどもう一週間になる。
名前が居ないとこの屋敷には一人ぼっちだ。
悪魔であっても居れば良い話し相手になっている。
クリーチャーとは話す気にならない。
偶に来る騎士団員と会話はしても皆直ぐに出て行ってしまう。
掃除をする気にもならず、毎日がただただ過ぎていく。
どれくらい飲んだか覚えていないワインを流し込む。


「ただいま」

「……名前」

「あら、こんなにワイン飲んじゃって」


ぶつぶつと文句を言いながら名前が指を鳴らすと空き瓶が消えた。
久しぶりに見る名前の姿にほんの少し喜びを感じたのを見ないフリをしてグラスにワインを注ぐ。
名前は人間ではなく悪魔だ。
明日また姿を消しているかもしれない。
悪魔に期待なんてするだけ無駄なのだ。


「お前のそれ、便利だな」

「それって?」

「指鳴らすだけで魔法が使えるやつ」


同じように指を鳴らしてみるも、何も起こらない。
名前は笑いながらテーブルに皿を置く。
以前にも出された事のあるカプレーゼ。
食べようとフォークに手を伸ばすと向かい側に名前が座った。


「別に指を鳴らさなくても魔法は使えるわよ」

「だろうな。目眩ましは何もしてない。他にも色々してるだろ」

「何、私に興味出てきたの?」

「お前の魔法にな」


つまらなーいと言いながら名前はいつの間にか手にしていたワインを飲む。
いつもの事なので特に気にせずカプレーゼを食べる。


「私の眷属になれば、シリウスも同じように使えるようになるわよ」

「それは興味ねえな」


杖があるし、と思いながら空にしたグラスにワインを注ぐ。
再びつまらないと騒ぎ出したリナは放っておいてカプレーゼを一口。
以前にも同じようなやり取りをしたな、なんて思い出しながら。


「大体なんでそう俺に拘るんだよ」

「好きだから、って言わなかった?」

「信じろって?」

「綺麗な物が好きなの。レギュラスも綺麗だったわね。勿体無いわ」


唐突に飛び出した弟の名前に指がピクリと動いた。
それに気付いているのか気付いていないフリなのか、名前はレギュラスの話を続ける。
主に昔の、名前と純粋に遊んでいたまだ子供だった頃の話を。
レギュラスはよく名前に本を読んで貰っていたのを覚えている。
そんな事があったのをレギュラスは覚えていたんだろうか。


「綺麗と言えば、ウィーズリーの長男くんも綺麗よね」

「じゃあ、俺は諦めてビルにしたらどうだ」

「あら、駄目よ。長男くんにはヴィーラちゃんがいるもの」

「ヴィーラちゃん?」

「知ってるはずよ。ボーバトンの代表選手」


昨年の代表選手のインタビューが載った日刊予言者新聞を思い出した。
ハリーからも話に聞いていたあの子か。


「ヴィーラなのか?」

「混ざってるわね」

「へえ。それが何か関係あるのか?」

「人の物には興味ないの。ヴィーラちゃんと出会う前だったら別だったわ」


悔しそうにそう言った名前がどこまで本気なのか解らない。
フラー・デラクールに出会う前だとしたらビルはエジプトに居た。
名前とエジプトが何となく結びつかず、思わず眉間に皺が寄る。
悪魔だからエジプトなんて簡単に往復は出来るだろうが。


「人の物に興味ないって、俺にはちょっかい掛けてただろ」

「まあ、シリウスったら。貴方は確かに女の子と遊んだりベッドで仲良くしたりしたけれど、一度も恋人だった事はないじゃない」


名前の言葉に思わず口元が引きつる。
この悪魔は一体何処まで知っているんだろうか。
一から十まで全て言われては堪らない。
目が合うと名前がにっこりと笑った。


「それより、何処に行ってたんだ?」

「ワインを買いにね」

「ワイン?」

「髭も剃らない誰かさんがどんどん飲んじゃうんだもの」


大いに心当たりがあるので目を逸らし、ワインを飲む。
せっかく話を逸らせたと思ったのに。
空になったグラスに名前がワインを注ぐ。


「もう直ぐクリスマス休暇でしょう。ハリー達が戻ってくるわよ」

「隠れ穴に行くんじゃないか。此処に来るのはモリーが嫌がるだろう」

「ああ、そうね」


子供達が騎士団に関わるのを嫌がるモリーがクリスマスを此処でと言うとは思えない。
夏休みに言い争いをした事もあるし、直接会えばまたハリーの事で言い争う可能性もある。
それに、モリーはハリーの事となると少しばかり大袈裟なのだ。


「貴方が隠れ穴に行くのは無理だしねぇ。あ、いっそイタチに変身してみる?」

「それこそ追い出されるだろ」

「じゃあ、猫?」

「そうまでして行きたくないな」

「そうよねぇ。ま、クリスマスは私が一緒に過ごしてあげるわ」


伸びてきた指に額をつつかれる。
その指を掴んだ途端、名前を呼ぶ声がした。


アーサーが重傷だという知らせが入り、名前が直ぐに姿を消す。
一体何処に行ったんだと考えていたらハリーと子供達が到着した。
ただ待つだけの長い夜を過ごし、朝が近付いた頃戸が開き、モリーが入ってくる。
その後ろに名前の姿があり、モリーがアーサーの無事を知らせるのを聞いていた。


「手伝うわ」


朝食を作ろうとしていたら名前が隣に並ぶ。
フライパンにベーコンを並べる傍らで人数分のカップが用意されていく。
後ろではモリーがハリーにお礼を言っている声が聞こえた。


「アーサーの所に行ったのか?」

「ええ。でも、その話は後でね」


小声でそう言った名前がチラリと後ろを見る。
モリーに声を掛けられたのはその直ぐ後だった。
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