騎士団のメンバーが慌ただしく出入りする中でやる事と言えば掃除。
あちこちを掃除する事しか出来ずイライラしていたところにスネイプの言葉。
掃除の進捗状況を聞かれ、一悶着あったのは記憶に新しい。
名前はと言えば相変わらず子供達と掃除に勤しんでいたかと思えばモリーやトンクスと料理をしていたりする。
何の違和感もなく溶け込んでいる辺り、さすがは悪魔というところか。


そして夜、ハリーがやってきた。
名前は普通に挨拶をしていたからお許しが出たんだろう。
ハリーは名前がブラックを名乗っている事に首を傾げながらも挨拶を返していた。
ホグワーツの生徒には手を出せないと言っていたが、不安はある。
一応目を光らせておこう等と考えていたら部屋をノックする音がした。


「シリウス、入っていい?」

「もう入ってるけどな」

「細かい事は良いの。ワイン持ってきたのよ」


ノックするなんて珍しい事もあるものだ。
グラスにワインを注ぐ名前は騎士団用の姿をしている。
その気になれば名前の存在なんて皆の記憶からすぐ消せるというのに。
此処に来てからというもの毎日屋敷に居るようだ。
気まぐれが長続きしているのか、それとも俺を監視する為か。


「はい、どうぞ」


差し出されたワインを受け取ると名前がベッドに座った。
何故かホグワーツ時代の姿になっている。
もし今誰かが入ってきて見られてしまったらどう思うか。
考えただけで頭を抱えたくなる。


「ハリーが来て嬉しい?」

「ああ。手出しするなよ」

「しないわよ。今私が手出しするのはシリウスだけよ」


それもまたどうなんだ、と思わないでもない。
それでもハリーに何もしないのが解って喜ぶべきなのか。
空になったグラスにワインを注ぎながら名前が笑う。


「何だよ」

「本当にハリーが大事なのね。モリーと一緒」

「……一緒じゃない」

「そうかしら。ハリーを心配しているのは同じだと思うけど」


モリーとの口論を思い出して苦い気持ちになる。
モリーの言葉はハリーを心配する気持ちからだと頭では解ってはいるが感情がついてきてくれない。
大体、モリーは神経質過ぎるのだ。
ハリーにだって知る権利はあるというのに。


「可愛いわよね、モリー」

「は?」

「あーんなに心配してハリーの意見も聞かずに反対しちゃって。本当、可愛い」


名前の赤い唇が弧を描く。
そのままの意味なのか別の意味合いを含んでいるのか。
多分に含まれている気がしてならない。
ワインを飲む姿はもうすっかり見慣れた。
今日は特に機嫌良く見えるのはハリーに会ったからだろうか。


「お前、ハリーに会いたかったのか?」

「そりゃあねぇ。リリーの子なのよ。外見はジェームズだったけど」

「もしかして、ジェームズ嫌いなのか?」

「嫌いじゃないわよ。ただ綺麗な子が好きなだけ。勿論今一番好きなのはシリウスよ」


頬に触れようとした唇を手で受け止めてワインを口に運ぶ。
不満を訴える声を聞き流しながらグラスを空にする。
瓶に手を伸ばすと横から伸びてきた白い手に先を越された。
空になったグラスにワインが注がれていく。
悪魔じゃなければな、とぼんやり思う。
本気かどうかも解らずただ思うだけ、伝えはしない。


「名前」

「何よ」

「そう拗ねるな。明日からも暫くは普通にしてろよ」

「普通って?」


小首を傾げる名前の頭を撫でながら何もするなと伝える。
すると途端に機嫌が直ったようで笑顔を浮かべた。
本当に単純だと思う反面、油断は出来ないのだと思う。
この単純さももしかしたら計算かもしれない。




翌日、言った事を守る気になったらしく名前は特に変わった様子はなかった。
掃除も家事もテキパキとこなしてハリーに関わる様子もない。
ハリーに会いたかったと言うから警戒していたというのに、拍子抜けだ。
一日中、特に不審な様子はなく完全に騎士団の一員として振る舞う。
少し警戒し過ぎていたかと思いながら階段を上っていると名前の姿が見えた。
名前・ブラックとしての姿ではなく悪魔としての姿で何かを見ている。
そういえば昼に此処でハリーと話をした。
名前の見ている物が何か解り、自然と眉が寄る。


「あら、シリウス。眠れないの?」

「……それに知り合いでも居るのか?」



名前の瞳は壁の家系図に向けられたまま。
隣に立ち、暗い部屋でも刺繍糸が光る家系図に目を向ける。


「そりゃ知り合いは居るわよ。オリオン、ヴァルブルガ、レギュラスでしょ、それから、貴方」


名前の手が一人一人順番に指差していき、最後に焼け焦げた場所で止まった。
かつて自分の名前があった場所。
白い指に黒い長い爪がそれをなぞる。
それを見ていたら何故か背筋に冷たいものが走った。


「オリオンと、初めて会ったのは貴方と同じあの森だったわ」

「え?」

「前に聞きたいって言っていたじゃない。聞かないなら、私は帰るけど」


以前の約束をちゃんと覚えていたらしい。
意外に思っていたらそれを見抜いたように名前がクスクスと笑った。
指を鳴らして椅子を二つ出すと座るように促される。
家系図に向かって並んで座るなんて、変な気分だ。


「オリオンが何歳だったかは忘れちゃった。でも貴方と初めて会った時にオリオンかと思ったくらいだから同じ位だったのかも」

「……そんな素振りなかったぞ」

「悪魔だもの。簡単には心の内なんて見せないわ。でも、本当に驚いたのよ」


一応親子ではあるから似ているのだろう。
しかしあの父親と似ていると言われるのは複雑だ。
名前はそれも解っているからクスクスと笑う。


「そんな顔しないでよ。嫌がらせで言ってるんじゃないんだから」

「解ってる。早く続き話せ」

「大体は、貴方達と過ごした一年と同じ。オリオンに時々会いに行って、ヴァルブルガ怒らせて遊んだくらいかしら」

「……性格悪い」

「悪魔にそれは褒め言葉よ」


楽しそうに笑う名前はいつもの何かを企んでいそうな物ではなく本当に楽しそうだ。
時折昔を思い出すかのように目を細めては、再び笑顔を浮かべる。


「卒業してからも遊びに来てって言うから遊びに行って、話をしたり添い寝したり。あ、特に何もないわよ?」

「……友達か?」

「さあ……付き合うお礼にってあの部屋とかこの服とかくれたけど」


今と変わらない姿の昔の名前を思い浮かべる。
そういえば名前が来る日は心なしか父親は機嫌が良かった。
名前の話が事実かどうか確かめる術はない。
悪魔は嘘を吐かないというのを信じるしかないのだ。
白い指先が父親の名前をなぞる。


「気に入ってたのよ。これでもね」


そう静かに呟いた名前は寂しそうな気がした。




(20160322)
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