騎士団のメンバーやウィーズリー一家、それにハーマイオニーがやってきた。
名前は一体どうするのかと思っていたら姿を俺やリーマスと同級生に見えるように変え、何の躊躇いもなく口にした言葉は名前・ブラック。
妻かと聞きたそうな皆の視線を一気に向けられて頭を抱えたくなりながら否定した。
しかし何人かニヤニヤしていたから全員が全員信じたかどうかは怪しい。
名前の方は掃除が捗ると喜びながらモリーや子供達とキッチンや寝室の掃除をしている。
キッチンは一見綺麗に見えるが名前からするとまだまだ気になるところがあるらしい。
「本当にそういう相手じゃないのかい?」
「アーサー、違うよ。名前はシリウスの親戚なんだ」
「ああ……リーマスの言う通りだ」
リーマスの言葉を聞いてそんな事を言っていた事を思い出す。
親戚だと聞いてアーサーに警戒の色が浮かんだ。
しかしグリフィンドールだと聞いて少し安心したらしい。
確かに、ブラックでグリフィンドールというのは異質だろう。
本当は親戚どころか得体の知れない悪魔なのだと知ったら皆どう思うか。
昼食に呼ばれて降りていくと名前とモリーが仲が良さそうに鍋を運んでいた。
騎士団のメンバーとウィーズリー一家が揃うと昨日までとは打って変わって賑やかになる。
まるでブラック家ではない別の家かのようだ。
勿論昔にも人が集まって賑やかだった事はある。
あの頃は純血主義ばかりが集まっていた。
ブラック家の話ばかりをしていたあの頃とは違う。
両親や弟もこんな日が来るとは思っていなかっただろう。
「名前、ちょっと来い」
昼食後、モリーと片付けをしていた名前を呼び厨房を出る。
いつもより大人しく付いて来たのはモリーの前だからか。
妻と間違われた事が嬉しかったらしく上機嫌なせいかもしれない。
「何処へ行くの?」
「聞かれたくないからな。バックビークの所だ」
「ああ……ヴァルブルガの部屋ね」
わざわざ言い直した名前を睨むが、満面の笑みを返されただけだった。
階段を上って母上様の寝室に入ると名前が真っ直ぐバックビークに近寄っていく。
バックビークは名前に対して特別な警戒心は抱いていないらしい。
大人しく撫でられているバックビークに餌の鼠を放り投げる。
「聞きたい事がある。答えろよ」
「内容によるかな」
「お前は騎士団のメンバーになるのか?」
「表向きはね」
「表向き?」
聞き返すと名前はバックビークから離れ、指を鳴らして椅子を出すとそれに座った。
そしてうーん、と言いながら悩んでいる素振りを見せる。
本当に悩んでいるように見えないのは口元が笑っているからだ。
溜息を吐いて名前の頭を撫でてやると途端に満足そうに笑う。
「私、というか、名前・ブラックは確かに騎士団のメンバーだけど、任務には協力しないわ」
「じゃあ、何するんだよ」
「呼ばれたらお仕事するだけ。あとは貴方の見張り」
名前を呼ぶのは恐らくダンブルドアだ。
そして俺の見張りを頼んだのも。
有難くて涙が出そうだ、と呟くと名前がクスクスと笑った。
「そうそう、モリーに本当はシリウスとどういう関係なのって聞かれたわ」
「……それで?」
「片想いって答えた」
「は?」
かたおもい、とは何だっただろう。
そんな事を考え、理解する頃には名前がまたクスクス笑っていた。
ただの親戚だと言ってもモリーは俺よりも名前の言葉を信じるだろうか。
大体、名前が付き纏う理由は魂が狙いで、そういう感情ではない筈だ。
しかしそんな事を言おうものならアズカバンで気が狂ったと思われかねない。
名前の正体を知っているリーマス相手なら何の問題もなく言えるのに。
「そういう顔も素敵ね」
そう言いながら首に腕が回され、引き寄せられる。
至近距離にある名前の瞳は茶色のままだ。
溜息を吐くと目の前の綺麗な顔に不満が浮かぶ。
「私を目の前に溜息を吐かない!」
「吐きたくもなる。モリーに色々言われたらどうする」
「良いじゃない。私に優しくしてくれれば」
「こんな風にか?」
名前の頭を撫でてやると途端に表情が変わる。
頬を撫で、軽く摘むと思った以上に柔らかい。
そのまま指を滑らせ、親指で唇をなぞる。
本当に綺麗な顔で見た目だけなら完璧。
しかしどれだけ見た目が良くても名前は悪魔なのだ。
ペロリと赤い舌が触れている指先を舐める。
「キスしてくれるの?」
「いや、しない。いつか……お前と契約する気になったらしてやる」
「本当?」
「する気になったらな。掃除に戻るぞ」
首に回されている名前の腕を退かし、体を離す。
バックビークを撫でて扉の方を向くと名前が飛びついてきた。
無邪気にはしゃいでいるようすを見ていると悪魔じゃなければ、と思ってしまう。
しかし、例えば名前が人間だったとして恋人になるかはまた別の話だ。
(20160125)
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