キッチンの扉を開けると料理をしている名前が立っていた。
機嫌が良さそうにベーコンを焼いている。


「おはようシリウス。よく眠れたかしら?」

「まあまあだ」

「そう、それなら良かったわ」


ニヤニヤ笑う名前を一瞥して椅子に座ると同時に水挿しとゴブレットが現れた。
水を飲みながら置いてあった新聞を広げる。
順番に目を通していくが特に気になる情報は見つからない。
やはりダンブルドアが来なければ情報は手に入らないのか。
何か知っているとすれば目の前の名前だが素直に話すとも思えない。
偶には簡単に話してくれたらと思わなくもないのだが。
手際良くトーストにマーマレードを塗る名前を見て溜息を吐く。


「溜息なんて吐いて、そんなにお腹空いてたの?」

「……違う」

「まあまあ、朝ご飯にしましょう」


焼いたベーコンにスクランブルエッグ、サラダとスープが並べられ、最後にトーストが置かれた。
昨日真っ黒だったのが嘘のように綺麗に磨き上げられて光っている。
トーストを一口かじると思いの外空腹だった事に気付く。
昨日一日中普段はやり慣れない掃除をしたからかもしれない。


「リーマスは?」

「まだ寝てるわ。貴方が早く起きてくるから、ちょっと焦っちゃったわ」


全くそんな様子はなかったのによくそんな事を言う。
サラダを口に運びながらチラリと名前を見るとニッコリと笑った。




ウィーズリー一家とハーマイオニーが泊まる部屋を確保しなければならない。
そう言い出した名前に従って荒れ果てた部屋に入る。
渡された掃除道具を放り出して杖を振った。
そう簡単に綺麗にはならないが手でやるよりはマシだろう。


「此処は何の部屋だったんだい?」

「さあ……客間じゃねえか?」


質問にそう答えるとリーマスは苦笑いを浮かべた。
いくら自分の家だと言っても解らないものは解らない。
そういえば名前がよく使っていた部屋は何処だろう。
何階の部屋だったか全く覚えていない。


「シリウスの家に来るとは思ってなかったな」

「俺だって思ってなかった」

「ジェームズが居たら色々な事をしそうだ」

「クリーチャーに何か仕掛けるだろうな」


クスクス笑い出したリーマスは埃だらけのカーテンに向かって杖を振った。
あれをやりそうだこれをやりそうだと話しながらシーツを剥ぎ取る。
名前が洗濯をするらしいので毛布と纏めて扉の前に置いておく。
一体どうやっているかは解らないがとにかく綺麗になってその日に戻ってくる。


「そういえば名前は?」

「向こうの部屋を掃除するとか言ってたけど」


リーマスが指差した先の扉に見覚えがなく、近付いてノックすると中から声がした。
恐る恐るドアノブを回し扉を開ける。
何処かで見たような気がする内装。
そして扉が開いているクローゼットの中には女性用のドレスが何着も。
覚えている限りどれも母親が着ているのは見た事がない。
窓際に置いてある写真立てには若い頃の父親の写真。
そして父親の横に居るのは今と全く変わらない姿の名前だ。
悪魔でも写真に写るのか、とそんな事を思う。


「あら、シリウス。どうしたの?」

「この部屋何だ?」

「私の部屋よ」

「見れば解る。聞いてるのはそういう事じゃない」


記憶にある限りこんな部屋は無かった筈だ。
普段は目眩ましでもかけているんだろうか。
そういえば名前が家で過ごす為の部屋があった気がする。
もしかしてこの部屋がそれだろうか。


「オリオンが私にって用意した部屋。あるのは私とオリオンしか知らなかったわ。貴方に部屋の扉が見えたのは、この家を相続したからじゃないかしら」

「相続すると見えるようになるのか?」

「さあ。部屋の事はオリオンに任せてたから」

「この部屋全部か?」

「家具も服も全部オリオンが選んだの。まあ、あんまり使ってないけどね」


名前がベッドに座るとその重みで沈む。
天蓋付きのベッドは黒を基調としていて、この家にも名前にも相応しい。
そういえばクローゼットに何着もある服も黒が多い気がする。
家具もクローゼットに詰められた服も父親はどういうつもりで選んだのだろう。
恋人ではないと言う割に行動が友人以上だ。


「ふふ、気になる?」

「そうだな。気になる」

「あら、素直ね」


一瞬意外そうな表情を浮かべた名前は直ぐにいつもの笑顔を浮かべる。
そしてくるくると指を髪に巻きつけながらどうしようかなと呟く。
素直に言ってみても名前が素直に教えてくれるとは限らないようだ。
薄々想像出来ていた事とはいえ溜息を吐きたくなる。


「偶には素直に話そうとは思わないのか」

「素直に、ねぇ……強いて言うなら、友達?」

「友達?」

「違うかな。顔見知りとも違うのよねぇ。恋人でも愛人でもなかったのは本当」


結局何なんだと思っているとリーマスの呼ぶ声が聞こえてきた。
リーマスにはこの部屋は見えない。
名前が立ち上がり、扉を開け手招きをしてくる。
仕方なく部屋から出ようと扉に近付くと腕を掴まれた。


「ちゃんと話してあげるわ。適切な言葉が見つかったら、だけど」

「信じて良いんだな」

「私は嘘は吐かないわ」


何度か聞いた事のある言葉に一旦名前を信じてみようと思う。
リーマスに返事をして今度こそ部屋を出る。




(20160111)
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