ダンブルドアから言われて久しぶりに戻った家は相変わらず暗く嫌な気分になる場所だった。
長年人が住んでおらず、廊下も部屋も掃除が必要な状態が嫌な気分に輪を掛けている。


「クリーチャーが居る筈なんだけど、何処に行ったのかしら」

「クリーチャー?」

「……家のしもべ妖精だ」

「随分、お休みしてるのかい?」


リーマスが埃の降り積もった屋敷を見回しながら言う。
その間にも名前が進んでいくので後ろをついて行くと、見覚えのある扉があった。
リーマスに厨房だと説明している間に名前が扉を開けクリーチャーを呼ぶ。
隅から顔を出したのは懐かしい我が家の屋敷しもべ妖精。


「クリーチャー、久しぶりね。昔よく来たのよ。覚えてる?」


クリーチャーは名前の言葉に返事はせずにお辞儀をしながら挨拶をし、部屋を出て行った。
相変わらず我が愛しの母上様が大好きなのだろう。
無視をされた名前は気にする事無く暖炉に薪を置き火を点けた。


「これじゃあティータイムも出来ないわね。まずは此処のお掃除をしなきゃ」

「手伝うよ」

「有難うリーマス。ほら、シリウスも」


何処から出したのかマスクとはたきを渡される。
リーマスにも同じ物を渡し、名前が手を叩くと箒が独りでに床を掃き出す。
雑巾でテーブルを拭きだした名前は早くしろと目で促してくる。
魔法でやれば良いのに、と思いながらマスクをし、はたきを持ち直す。
その時カタンと言う音が天井の方から聞こえてきた。
長年放置されていたこの家に必要なのは掃除だけではないらしい。


魔法も使いながら何とか厨房の掃除を終えると名前がテーブルに料理を並べ始めた。
久しぶりにこの厨房で食事をする。
昔、名前も一緒に家族で食事をした事があった。
あの時は、まだこの家に居る事が嫌では無かった気がする。


「とりあえず、貴方達が今晩寝られるようにしないといけないわね」

「一旦家に帰っても良いけど」

「そうね。そうしても良いけど……シリウス、どうする?」

「俺はどっちでも」


そう答えると名前とリーマスが相談を続けた。
掃除が終わらないようならリーマスの家に行くと決まったらしい。




結局掃除は無事に終わり、名前が洗濯した布団も返ってきた。
久しぶりに入る部屋のベッドに寝転がり、懐かしい天井を見上げる。
あんなに出たくて堪らなかった家に戻って来てしまった。
騎士団の本部として役に立つならというのは本心。
しかし、それとは別に色々と思う事はある。


「寝られない?」

「……大好きな我が家に帰ってきたからな」

「あら、感動の時間を邪魔しちゃったかしら」

「そうでもねぇよ」


身体を起こすと同時に名前がベッドに腰を下ろす。
何故かホグワーツの制服を着ている。
学生時代の気持ちを思い出してしまい、息を吐いた。


「リーマスの家に戻れば良かったじゃない」

「……どうせこっちに戻るんだ」

「まあ、そうね。そのうちハリーも来るんだから」

「ああ、そうだな」


名前の髪を持ち上げるとするりと逃げていく。
指通りの良い黒髪は昔と全く変わらない。
変わらなければ、違う今があったんだろうか。
いや、そもそも変わらなければ親友にさえなれなかった。
変わらない物なんて目の前に居る悪魔だけだろう。


「どうしたの?」

「いや、別に」


よく解らないが、何となく手を離しづらくてまた髪を持ち上げる。
何だか甘い匂いがして苦手な筈なのに何故か落ち着く。
この甘い匂いが何故か懐かしく感じて首を傾げる。
学生時代も脱獄してからもこの匂いを嗅いだ覚えはない。
となると昔、まだこの家に住んでいる時の事だろう。


「シリウス、今でもこの家は嫌い?」

「……さあな。今は誰も居ないからな、お前とリーマス以外」

「クリーチャーが居るじゃない」

「ああ……親愛なる母上様もいらっしゃるんだったな」


玄関ホールの肖像画を思い出してそう言うと名前が困ったような顔をした。
きっとあの肖像画は昔と変わらない事を言うのだろう。
一言だって聞きたくもないし、考えただけでうんざりしてくる。
クリーチャーはずっとあの肖像画とこの屋敷に居たのか。
自分がその立場だったらとてもじゃないが耐えられないだろう。
しかしこの先そうなるだろうと思うとまた色々な感情が沸き起こる。
大きく息を吐くと急に腕を引かれ、抱き締められた。


「おい、何するんだよ」

「何もしないわ。こうするだけ」

「……こんな事しても、無駄だぞ」

「解ってるわよ」


母親が小さな子供をにするように頭を撫でられる。
まるで寝かしつけられているような気分だ。
そんな事されたかな、と考えながら目を閉じる。
覚えていないような小さな頃にされた事があるかもしれない。
ハリーをあやすリリーを思い出しながらそんな事を考える。


「シリウス、私は貴方の味方よ」


言い聞かせるように名前が穏やかに言う。
その間も頭を撫でる手は止まらず、その手はとても優しい。
撫でられる度少しずつ瞼が重くなっていく。
名前が小さな声で呟いたおやすみという言葉を最後に聞いたような気がする。




(20151228)
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