「何だか、君はシリウスの母親みたいだね」


扉を閉めた名前の後ろ姿にそう声を掛けると名前はクスクスと笑い声を上げた。
シリウスと名前の関係が今どうなっているのかは知らない。
もしかしたら恋人かと思ってみたりしたけれど、どうやら違うようだ。
まあ、相手は悪魔だから恋人と言ってもお遊びのような物だろうけれど。


「私は母親になりたい訳じゃないんだけど」

「君の方が年上なんだから、仕方無い?」

「やだリーマスったら、女性に年齢の話なんてするもんじゃないわ」


そう言いながら名前はテーブルに新しく置かれていたワインを開けた。
グラス二つにそれを注ぎ、一つが目の前に差し出される。
香りからしてこれはきっと手の届かないくらい高い物なんだろう。
それを名前は惜しげもなくグラスを空けると再びワインを注ぐ。


「ああ、そうだ。有難う」

「有難うって、何が?」

「毎月、脱狼薬を届けてくれたのは名前だろう?」

「さあ、どうかしら」


クスクスと笑いながら名前はまたグラスを空にした。
名前より先に瓶を持ち上げるとグラスが差し出される。
シリウスに聞いた話では学生時代もこうして飲んでいたらしい。
しかもホグワーツの敷地内で堂々と。
そんな事を思い出しながら目の前の名前を見る。
頭の天辺から足の先まで学生時代のままの姿。
違うと言えばホグワーツの制服ではなく貴族服を着ているところだろうか。
マグルの物だけれど、明らかに他の物よりも丈が短い。


「偶に、勘違いしそうになるよ。君はあの時のままの姿だから」

「ホグワーツの制服着ましょうか?」

「いや、そのままで良いよ」


ホグワーツの制服を着たらこのアルコールの回った頭では益々勘違いをしてしまう。
あの時に戻れたらと思う事はあっても、どんなに願ってもそれは決して叶わない事だと解っている。
ちゃんと解っていてもそんな事を思ってしまう。
こんな事になってしまった今は、特に。


「……名前、君はこうなるって解っていたの?」

「さあ、どうかしら」


グラスの縁を指でなぞりながら名前が笑みを浮かべる。
こういうところは学生時代の名前と違う。
あの時も本来の性格はこうだったのかもしれない。
姿形は同じでも素を見せるようになった名前は大人になってから知った。
もっとも、今の名前が本当に素なのかは本人しか知らない。




結局名前は質問には答えずあの後直ぐに帰ってしまった。
朝起きたら朝食が用意されていたからまた此処に来たのだろう。
トーストやベーコンからスープやサンドイッチにデザートまで揃っている。
自宅にこんな豪華な朝食が用意される日が来るなんて思わなかった。


「ああ、これは美味いぞ。前にも出された事がある」

「前も思ったけど、名前を信頼してるんだね」

「俺があいつを?」

「だって、名前の手料理を疑う事もなく食べるじゃないか」

「……いや、それは食う物が無かったからで」


ブツブツ言い始めたシリウスが美味しいと行ったサンドイッチを食べる。
卵焼きとトマトとレタスが挟んであるそれはシリウスの言う通りとても美味しい。
頼んだらまた作ってくれるだろうか。




今日一日、特に新しい情報は何も入らなかった。
その事にシリウスは焦りを感じたのか名前が残したワインを飲み始め、結構経つ。
朝食の残りを食べつつシリウスの話に相槌を打ちながら新聞を読む。
何度読んでもやはりヴォルデモート復活の記事は載っていない。
話を聞く限りファッジは信じていないようだし、載らないのも当たり前だろう。


「あら、ワイン全部空っぽじゃない」

「やあ名前、こんばんは」

「名前……?」


名前の名前に反応したのかシリウスが勢い良く顔を上げた。
寝そうになっていたというのに、この反応速度。
シリウスの中で名前はどういう位置付けなのか。


「何か、進展はあったか?」

「焦らない。とりあえずお水飲みなさい。リーマス、紅茶は?」

「欲しいな」


シリウスは不満げながらも名前が差し出したゴブレットを受け取った。
不満と顔に書いてあるシリウスはずっと名前を目で追っている。
紅茶をそれぞれの前に置いた名前は一口飲むと新聞を持ち上げた。
茶色の瞳が新聞の隅から隅へと動いていく。


「ファッジも、残念よねぇ。まあ、予想はしてたみたいだけど」

「名前、何か無いのか」

「シリウスったら。進展は、昔の仲間が集まったくらい。それからハリーは無事よ」

「ダンブルドアは騎士団を復活させるのか」

「騎士団……今度は、どうなるんだろうな」


眠そうな顔をしながらシリウスがぽつりと呟いた。
前の騎士団を思い出しているんだろう。
仲間は多かったが、その分犠牲も多かった。
親友の顔を思い出して言葉にならない気持ちになる。
思う事はあの時も、今もあって、離れてくれない。


「シリウスったら寝てしまったのね。ワイン飲み過ぎなのよ」

「止めたんだよ、一応」

「聞くようならこんな風になってないわね」


呆れながらも名前は笑っていて、寝ているシリウスを持ち上げた。
身長差はあるし性別だって違うのに軽々と持ち上げているのを見ると悪魔だと再確認する。
扉を開けようと腰を浮かしたところで勝手に扉が開き、易々とシリウスを抱えた名前が出て行った。
暫くして戻ってきた名前は驚いている私を見ていけないいけないと言いながらクスクスと笑う。


「君とシリウスは不思議な関係だね」

「私はシリウスを愛でたいんだけど」


名前に愛でられるシリウスを簡単に想像出来てしまった。
シリウスに知られたら怒られてしまうかもしれない。




(20151213)
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