ハリーへの手紙を書く俺を見て紅茶を飲んでいた名前がクスクス笑い出した。
そんな名前を一瞥してクッキーを一つ放り込む。
梟に持たせてクッキーを一つやれば綺麗に食べてから飛んで行った。
ハリーの最後の課題はもうすぐでとても落ち着いていられない。
しかしハリーはジェームズとリリーの子だ。
きっと無事に終えてくれるだろうと信じている。


「心配?」

「当たり前だ。ハリーの様子は?」

「相変わらずよ。毎日呪文の練習してるわ」

「そうか」


名前に様子を聞いてホッとする、というのが最近のお決まりだ。
近くに居ても姿が見えないのは何とももどかしい。
紅茶を飲み干して思い切り息を吐き出す。
お代わりを注ぐ名前はまたおかしそうに笑い出した。


「お前だって眷属が危険な目に遭うかもしれないと思ったら心配だろ?」

「そうねぇ……心配にはならないかしらね。そんな弱くないし」

「そうかよ」

「貴方の事は心配してるけど」


喜ぶべきか嫌がるべきか解らず顔が引き攣る。
それを見てまた名前がおかしそうに笑った。




全ての用事を終えた安心感からか、それとも色々あった疲労感か。
座り込んだと同時に自然に出た溜息を聞いたリーマスが笑った。


「お疲れ様。これしかないんだ」

「ああ、充分だ」


リーマスが置いたグラスの中身は安物だと言うワイン。
一気に飲み干して息を吐いた。
今頃は夢の中だろうハリーの青い顔を思い出す。
近くに居たって守れなかったなら意味が無い。
一体俺は何の為に洞窟に居たと言うのだ。


「ハリーはジェームズに似て勇敢だね」

「そうだな」

「私も行けば良かったかな」

「懐かしの屋敷に行けるって訳だ」

「そうだね。近くには昔のように親友も居るし」


リーマスと顔を見合わせて笑う。
重かった気持ちが少し気が軽くなった気がする。


「そういえば、名前とは会った?」

「気紛れに来てたな。此処には来てないのか?」

「来てないよ。毎月脱狼薬は送られてきたけど」


名前が魔法薬を作る姿を思い浮かべて昔を思い出す。
面倒だと呟きながら魔法を使って完成させていた。
それでもスラグホーンには褒められていたからちゃんとした物だったのだろう。
それにしても、毎月脱狼薬を送るなんて案外律儀な悪魔だ。


「やあ、名前。いらっしゃい」

「こんばんはリーマス。ちょっと遅くなっちゃった」


噂をすれば何とやら、名前が隣に座る。
そして俺を見てにっこりと笑った。


「ちょうど今名前の話をしていたんだよ」

「あら嬉しい」

「お前今まで何処に居たんだ?」

「ちょっと遠いお屋敷」


そう言うと名前はグラスとワインを出し、更に山盛りのビスケットを出す。
早速リーマスが手に取るのを嬉しそうに見てからワインを注ぐ。
これは本当の事を言うつもりは無いようだ。
いつの間にか置かれていたバスケットから何か料理を取り出している。
その様子を見ていたら頭に浮かんできた以前聞いた名前の言葉。
ダンブルドアとムーディの目があるからかと聞いたのに名前はダンブルドアの事にしか触れなかった。


「名前、お前はムーディの正体に気付いてたのか?」

「ええ、知ってたわ」

「ダンブルドアに言ったのか?」

「言ってないわよ。聞かれていないもの」


あっさりそう言い切った名前に怒りが湧き上がる。
胸元を掴み、気が付いたら細い首を掴んでいた。
リーマスが名前を呼ぶ声がしたような気がするが耳に入らない。
俺がハリーを守りたいと言っていたのを名前は知っている。
ダンブルドアがハリーをどれだけ厳重に守っているのかも。
それなのに、どうして。


「私の首を絞めても無駄だって知ってると思ったけど」

「黙れ」

「シリウスは私が善良な人間だと思ってるのかしら。悪魔だって忘れちゃった?」

「何?」

「大体、アラスター・ムーディを疑いもしなかったじゃない。アルバスも、貴方も」


真っ赤に光った名前の瞳に怒りを露わにした自分の姿が映る。
簡単に外された手はそのまま名前の手に掴まれた。
力を入れてもビクともせず、以前の事を思い出す。
名前の首を絞めるのは二回目だ。
前はジェームズとリリーが死んで、アズカバンに入れられた時。
手の力が抜けていき、名前の目が茶色へと戻っていく。


「名前、大丈夫かい?」

「大丈夫よ。優しいのね、リーマス」


二人の会話を聞き流しながらワインを飲み干し頭を抱える。
どうして、いつもいつも後からこんな事を知るのだ。
疑えば、ハリーは辛い目に遭わず、こんな事態にならずに済んだのか。
しかしあのムーディを誰が疑うと言うのだ。
ダンブルドアでさえ疑わなかったムーディを。


「はい紅茶。ワインなんかより落ち着くわ」

「……ああ」


手渡された紅茶を飲み、気持ちが落ち着いていくのを感じる。
今は冷静にやれる事をやらなければいけないのだ。
今はただダンブルドアからの連絡をリーマスと一緒に待つしかない。


「リーマス、悪い」

「驚いたけど、君の事はよく知ってるつもりだよ」

「ふふ、親友だものね。さあシリウス、貴方はもう寝なさい」

「は?」

「貴方だって最近心配のし過ぎで寝てないじゃない。ベッドの準備はしてあるからシャワー浴びたら寝なさい」


そう言いながら腕を引かれ立たされた。
毎日姿を見せない癖にそういう事は知っている。
悪魔ってやつはよく解らない。
解ってしまったらそれはそれでどうなんだ。
しかし余り眠っていないのも確かなので素直に言われた通りにしよう。
おやすみの挨拶をしてドアを閉め大きく息を吐く。
現状はどうであれ、とりあえずは心配事が一つ片付いた。




(20151030)
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