洞窟に戻って来ると誰かの気配を感じ、隠れて中の様子を窺う。
この洞窟を知っているのはダンブルドア、今教えたばかりのハリー達、そして名前だ。
チラッと見えた貴族服から名前だと解り、少し安堵して洞窟の中へ入る。


「お帰りなさい、シリウス」


バックビークを撫でながら振り向いた名前が言う。
足元にはいつものバスケットが置かれている。
中には何か入っているのだろうが何の匂いもしない。


「お腹空いてるかと思って持ってきたけど、ハリーが持ってきてくれたのね。久しぶりのチキンは美味しかった?」

「ああ。お前がクリスマス以降姿を見せなかったからな」

「シリウス、もしかして私に会えなくて寂しかった?」

「……何でそうなるのか解るように説明してくれるか?」


照れちゃって、と言いながら腕に抱きついてくる名前を引き剥がして奥へ進む。
寂しい訳はないが、クリスマスの時の様子は気になっていた。
だからと言って名前が寂しいと言っても一緒に居ようだなんて今は思っていない。
人間を辞めるつもりも眷属になるつもりも今はさらさら無いのだ。


「ハリーとの再会はどうだった?」

「元気そうで安心した」

「そうね、とっても元気よ」

「……お前ルード・バグマン知ってるか?」

「知ってるわよ。どうして?」


先程聞いたハリーを気に入ったから助けたいと言っている事を話す。
人柄をよく知らない事と、ハリーは心配ないと思っている事。
聞きながら名前はいつものテーブルを出して料理を並べ始める。
サンドイッチやスコーン、ケーキといった軽食ばかりだ。


「それなら心配要らないわ。あの人は……そうね、個人的に少し困っているからハリーに勝って欲しいだけよ」


訳が分からず説明を促しても名前は答えない。
それどころかクッキーを口の中に押し込まれてしまった。
やけに甘いそれを飲み込むと今度は紅茶を渡される。


「そんなに心配しなくてもハリーは大丈夫よ。競技の間はね」

「ダンブルドアとムーディの目があるからか?」

「そうね、アルバスの前じゃ何も出来ないわ」

「お前やっぱりダンブルドアと繋がってんのか」

「あら、いけないいけない」


わざとらしく手で口を覆う名前は涼しい顔でクッキーを手に取った。
自画自賛の言葉を放ちながら時々それをバックビークに投げている。
相変わらず食べるスピードは早くあっという間に消えていく。
サンドイッチをかじりながらハリー達から聞いた事を思い出す。
いくら考えてもクラウチの行動は全く理解出来そうも無い。
とにかくハリーに何も起こらず無事に終わってくれれば良いのだが。




ハリーから届いた手紙を読んでいると名前が現れた。
気にせず最後まで読んでから顔を上げる。
そこにはいつものテーブルと最近お決まりになった軽食が並んでいた。


「あら、随分ご機嫌斜めなのね。必要かと思って持って来たのよ」

「……羊皮紙寄越せ」


差し出された羊皮紙と羽根ペンを奪い取ると名前がインク瓶の蓋を捻る。
ジェームズ、お前の息子は少し危機感が足りないんじゃないか。
心の中でジェームズに文句を言いながら手紙を書き、梟に持たせる。
どうしたらあの子は自分の置かれている状況を理解してくれるのだろう。


「シリウス、ハリーはちゃんと解ってるわ。ビクトール・クラムはこの記事を気にしているだけなのよ」


いきなり現れた雑誌のページがひとりでに捲られていく。
タイトルはポッターの密やかな胸の痛みだった。
眉が寄るのを自覚しながらその記事を読み始める。
冒頭にリータ・スキータの名前を発見してげんなりした。


「……ハリーとハーマイオニーは、そうなのか?」

「まさか。書いたのはリータ・スキータよ。ハリーは他に好きな子が居るし、ハーマイオニーもちゃんと好きな子が居るわ」

「つまり、ビクトール・クラムはハーマイオニーが好きなのか」


名前がスコーンに蜂蜜をかけながら頷く。
頭を抱えて溜息を吐くと目の前に皿が置かれた。
チキンが挟まれたサンドイッチが乗っている。
かじりながら記事に目を戻した。
事情は解ったがだからと言って夜にビクトール・クラムと二人きりはいただけない。


「貴方からの手紙もあるし、ロンとハーマイオニーも居るから大丈夫よ。それに、課題の準備もあるでしょう?」

「ああ……何も起こらないと良いが。お前、ハリーを守れ」

「課題中の選手には手出し出来ないの。そういう約束だから」


名案だと思ったが、ダンブルドアとそういう約束をしたようだ。
一体名前とダンブルドアの間でどんなやり取りがされたのだろう。
名前に聞いてもダンブルドアに聞いても恐らく何も答えない。
どちらの口を割らせるのも簡単な事では無いだろう。


「見に行けたら一番良いんだけどな」

「見に行っても観客からは何が起きてるかよく解らないと思うわよ」


打つ手無しというのは正に今この状況だ。
いや、ダンブルドアの事だから対策はしているのだろう。
ムーディを呼び寄せたのもきっと対策の一つ。
俺が出来る事と言えば結局情報を集める事だけなのだ。




(20151013)
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