雪が降り始めるとあっという間に積もり辺り一面が真っ白になった。
ハリーから届いたドラゴンを出し抜いた方法が書かれた手紙を何度も読み返す。
あの子はジェームズに似て箒で飛ぶのがとても上手だ。
ドラゴン相手でも全く引けを取らなかっただろう。


「メリークリスマス、シリウス」

「ああ、お前か」


洞窟から入ってきた名前はマントのフードを脱ぎ、肩の雪を払った。
手にはいつものバスケットが下げられていて良い香りがしてくる。
いつものようにマントの下は貴族服だった。


「あら、またハリーからの手紙読んでたの?」


好きねぇ、と言いながら名前が指を鳴らしテーブルを出現させる。
そしてバスケットから料理を出し並べ始めたのを見て空腹感に襲われた。
ビーフシチューにポークチョップ、ローストターキーにサラダ、そしてクリスマスプディング。
最後にワインを取り出して用が済んだらしいバスケットが消えた。


悪魔がクリスマスを祝うのか、と今更疑問に思いながら料理を口に運ぶ。
ご丁寧にクリスマスツリーもいつの間にか現れていた。
妖精が飾られていないからこれはマグルの物なのだろう。
飾り付けを悪魔である名前がやったというのは何だか奇妙だ。


「今頃ホグワーツも食事の時間の筈だわ」

「パーティーか」

「とっても豪華よ。貴方を連れて行っても良かったんだけど、厄介な人が居るから無理ね」


つまらなさそうに言って名前はワインを飲み干す。
厄介な人とはスネイプやカルカロフの事だろうか。
いや、名前とスネイプは知り合いだ。
連れて行くなら名前はきっと俺に魔法をかける。
だからスネイプと会っても問題はないだろう。
じゃあ、ムーディの魔法の目の事か。
魔法の目が何処まで見通すか解らない。
名前が悪魔である事まで見抜いてしまうのだろうか。


「お前がパートナーなんだろ?」

「そうよ。私じゃ不満?」

「……お前自分の格好見てから言えよ」


可愛いでしょ、と言いながら両手を広げる。
上半身しか見えなければ本物か解らないが綺麗な外見もあって貴族にしか見えないだろう。
しかし問題なのは丈が短く、ブーツを履いている下半身だ。
そんな格好を見たらマクゴナガルなんかは怒るだろう。
父親がプレゼントしたと言うが本当にこれをプレゼントしたんだろうか。


「シリウスのドレスローブ姿見たいわ」

「……俺が子供の頃に見ただろ」

「見たけど子供と大人じゃ違うもの」


子供の頃、親に連れて行かれたパーティーで名前を見た事があるのを最近思い出した。
パーティーに行った事は覚えているのに名前を見た事を覚えていない理由は目の前の悪魔に聞けば解るだろう。
尤も、此方の質問に対して素直に答えればの話だが。


クリスマスプディングを食べ終えてワインも飲み干すと皿が全て消えた。
向かい側に居る名前は珍しく何か分厚い本を読んでいる。
悪魔でも本を読む事もあるのかと思っていると名前が顔を上げた。
そういえば、学生としてホグワーツに居た頃はよく本を読んでいたような。
内容は子供向けの物語ばっかりだったが。


「ねえ、シリウスはどれが好き?」

「は?」

「ほらこれ」


見せられたページには予想もしていなかった物が載っていた。
やけに分厚い本はドレスローブのカタログだったらしい。
しつこくどれが好きだと聞いてくるから目についた物を選ぶ。
よっぽど変な格好じゃなければ特に気にしない。
どれが好きだとか何度も聞かれた事はあるが一度も真剣に答えた事は無かったと思う。


「じゃあ、私がこのドレスローブに着替えたらパートナーでも問題無いわね」

「……は?」

「だって、好きなんでしょ?」

「いや、何の話……行かねえし」


どうしてだと騒ぎ始めた名前に頭を抱える。
俺よりも年上の癖になんだってこんなに子供っぽいんだ。
それは名前が女だからなのか、そもそも悪魔だからか。
いや、他の悪魔を知らないから何とも言えない。
溜息を吐いてまだ読んでいない新聞を広げた。


「シリウスって私に冷たいわ」

「そうか?」

「そうよ。でも貴方は学生時代も女の子には甘い言葉なんて囁いたりしなかったものね。小さな頃は可愛かったのに」


つまらなさそうに言う名前の言葉を聞き流して記事に目を通す。
一通り見ても特に気になる記事は見つからなかった。
何も無い事を喜ぶべきか情報が手に入らない事を残念がるべきか。


「ねえシリウス、クリスマスプレゼントちょうだい」

「何も用意してない」

「大丈夫。私と一曲踊って」


ね?と名前が首を傾げるとテーブルは消え、音楽が流れ出した。
それと同時に俺も名前もドレスローブ姿になっている。
しかも名前のドレスローブは先程俺がカタログで適当に選んだ物だった。


「俺は踊れないぞ」

「私が教えてあげるわ」


手を引かれ、名前が促すままステップを踏み始める。
そんなに広くないが壁にぶつかる事もなくリードされるまま。
近くで見る名前は昔と全く変わらず、やはり人間では無いのだと改めて認識する。
老いる事も無いその姿は学生時代も入学前も変わらない。


「なあ、お前は寂しくないのか?」

「寂しい?」

「一人だろ、ずっと」


くるりとターンをして、名前の足が止まった。
繋がっていた手が離され背中に回される。
抱きつかれたのだと理解した時には肩に名前の頭が置かれていた。
どうしたものかと自分の両手を見つめてみる。
諸々考えると簡単には抱き締められない。
今どんな表情をしているかすら解らないのだ。
とりあえず、頭を撫でてみる。


「おい、名前?」

「……寂しいって言ったら、シリウスが一緒に居てくれる?」

「無理だな。俺はお前みたいに永遠に生きてる訳じゃないんだ」

「そうね」


顔を上げた名前がもう一曲踊りましょうと言う。
今日は眷属になれとは言わないのを珍しく思いながら差し出された手を取った。




(20150911)
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