「ようこそ!ホグワーツへ!」


両手を広げて何処から降ってくるのか花びらを被りながら名前が笑顔で言った。
そんな名前の後ろには禁じられた森にある筈の無い小さな小屋が建っている。
その小屋はドアと小さな窓があるだけで、他には何も無く、窓から部屋の中は見えない。
カーテンが閉まっている訳ではなく、森があるかのように木が映っている。


「何だ、これは」

「何ってシリウスの為に作ったのよ」

「こんなもんあったら目立つだろ」

「大丈夫よ。シリウス以外誰にも見えないから」


名前が取っ手を回して扉を開け此方に向かって手招きをした。
きっと行かなければまた煩く騒ぐのだろう。
溜息を吐いて重たい足を何とか持ち上げて前へ進む。
扉を潜ると中は予想に反してそんなに広くは無かった。
外観より少し広いような気がする位の広さ。
ベッドとテーブル、暖炉にシャワールームがある。


「どう?気に入った?」

「まともだな」

「でしょう?」

「でも、使わないな」

「えー!何で?」


名前の頭を撫でてから小屋を出ると後ろから追い掛ける足音が聞こえた。
確かにこの禁じられた森の中で小屋で過ごす方が安全だろう。
でも、俺はホグワーツにのんびりとした安全な生活を送る為に来た訳じゃ無い。
あの裏切り者がハリーに何かをする前に捕まえて復讐をするのだ。
その為にはホグワーツに入り込む隙を伺わなければいけない。


「お前ならこんな小屋作るのは簡単だろ?必要になったら言う」

「解ったわ。次はマグルの女の子のポスターでも貼っておくわ」


思わず名前の顔を見ると面白そうにニヤニヤしていた。
そういえば、名前はブラック家に来た事がある。
でも俺は小さな頃にしか会った事が無い。
いつ知ったのか解らないが、嫌な事を持ち出す。
流石は悪魔だと言うべきだろうか。


「とりあえずご飯かしら?チキンとシチューがあるわよ」


そう言いながらいつの間にか持っていたバスケットから取り出し、これまたいつの間にか現れたテーブルに並べていく。
ロココ調の猫脚のテーブルは禁じられた森の風景に全く合っていない。
それでも名前は全く気にせず新たにランカシャー・ホットポットを置いた。


「召し上がれ」

「悪魔の言葉だって解っててもこれは魅力だな」

「あら、何も仕込んで無いわよ?」

「解ってるよ」


食事と一緒に用意された紅茶を一口飲んでチキンに手を伸ばす。
アズカバンを出て以来のまともな食事はとても嬉しい。
温かいシチューを口に入れ、飲み込んでからチキンをかじる。


「明日は何食べたい?シリウスの好きな物作るよ」

「別に要らねえけど」

「駄目よ。食べなきゃ本当に皮と骨になっちゃう。そんなシリウス嫌だもの!」

「俺は遊びに来てる訳じゃない。ゆっくり食事する時間はねえな」

「じゃあサンドイッチにするわ。それなら良いでしょ?」


不満そうな名前に頷いてみせると少しだけ機嫌は直ったらしい。
悪魔の姿では珍しく紅茶を飲みながらクッキーを食べている。
食事は必要無いと言っていたが、それは嘘なんじゃないかと偶に思う。
減ったら減った分直ぐに追加されるから食べていないように見えるだけで名前は食べる時は本当に食べるのだ。
名前の大好物らしいチョコレートなんて高級な物を次から次へと口の中に放り込んでいく。
リーマス辺りが見たら羨ましがるんじゃないかと思う。


「そういえば、お前リーマスがどうしたか知ってるか?」


リーマスは無事かどうか、軽い気持ちでの質問だった。
それなのに名前の唇は愉快そうに弧を描く。
こういう表情の時は決まって同じ事を言うのだ。
自分の魅力を最大限生かすように小首を傾げて。


「知りたい?」

「知りたいから聞いてるんだろ」

「そうね。教えて欲しいなら」

「キスしろって言うんなら答えなくて良い。それから、眷族にもなんねえからな」

「えー」


不満そうな声を上げる名前を無視して最後のサンドイッチを飲み込む。
長旅の疲れのせいか空腹が満たされたら睡魔が襲ってくる。
何処か眠っても安全な場所まで移動しなければいけない。
それとも、犬になってしまえば此処で眠っても大丈夫だろうか。


「此処なら大丈夫よ。誰も、何も、来ないわ」

「お前が居るだろ」

「流石に寝込みは襲わないわ。機会なんて幾らでもあったじゃない」

「ああ、確かにそうだな」


名前が何処かから出したピクニックシートを広げる。
腕を引かれそこに横になるとふわふわなシートの感触が心地良い。
長い間感じる事の無かった柔らかさだった。
隣に座った名前が枕を取り出すのをぼんやりと見る。
自分の杖が無い今、名前の存在はとても有難い。


「リーマスだけどね」

「ん?」

「此処に居るのよ。闇の魔術に対する防衛術を教えてる」

「リーマスが?」

「ええ」


最後に見た時よりも歳を取っているのだろう。
相変わらず人狼の事を気にして自分の事を低く評価しているだろうか。
リーマスは優等生だったから、教えるのも上手かもしれない。
俺とジェームズの教え方は解りづらいと言われていた。
懐かしい、と思えば思う程許せない気持ちが強くなっていく。
幾ら腰巾着だと言われようとあいつの事は信じていたのに。


「シリウス、今はゆっくり休みなさい。貴方疲れているでしょう?」


名前の手が目を隠すように置かれて光が無くなった。
冷たい手なのに何処か温かくも感じる。
体が重くて、段々と意識が遠くなっていく。




(20140701)
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