「やっと起きたかい?もう少し遅かったら君に水を掛けようかと思っていたんだけど」

「ふざけんな」

「急に眠り始めたのはシリウスじゃないか!もう直ぐ朝だよ?早く戻らなきゃいけないんだ。ちゃんと解ってるだろうね?」


ジェームズに適当に返事を返して半分寝かかっているピーターを引き起こす。
リーマスはもう変身は解けていて、床で眠っていた。
ピーターを引っ張りながら歩き出せばくどくどと文句を言っていたジェームズが慌てて追い掛けてくる。


「なあ、俺寝てたのか?」

「寝てたけど」

「俺ずっとあそこに居たか?」

「何言ってるんだいシリウス。僕が何度起こしたか解ってる?」


あの出来事は夢だったのだろうか。
黒い長い髪に赤い瞳の名前と名乗った女。
ジェームズの言う事が確かなら、やはり夢だろうか。
それにしては、あの笑い声が耳に残っている。


殆どギリギリになってしまったから眠る事も出来なかった。
欠伸をする度にジェームズが眠いのはこっちだよ!と文句を言う。
それでもエバンズを見つけるといつもの演説が始まる。
やっぱりいつものように邪険に扱われて終わりだけれど。


「シリウス!ピーター!見たかい?リリーは今日も照れてるみたいだよ!」

「違うだろ」

「僕も違うと思うけど」


そう言った瞬間ピーターが欠伸をしてそれは自然とジェームズと俺にも伝染する。
明らかに睡眠時間が足りないのによりにもよって今日は実技ばかりだ。
座学なら眠っていられるのに、と思ったけれどそう考えたところで仕方無い。




夕食が終わるといよいよ瞼が重くなってきた。
まるで重りでも乗っているかのように今にもくっついてしまいそう。
ベッドに倒れ込むと同じように二人分倒れ込む音が聞こえた。
何とか着替えなければ、とベッドの中で制服を脱ぐ。
すると突然フッと腰に重みを感じた。
この部屋には今俺を含めて三人しか居ない。
ジェームズかピーターか、と首を捻る。


「ハーイ、シリウス」


にこやかな顔を見て思わず脱いだばかりの制服思い切り投げつけた。
しかしそれはぶつかる前に突然勢いを失い、ベッドへと落下する。


「酷いわシリウスったら」

「お前!何で此処に居るんだ!」

「会いたくなったから。駄目?」


こてん、と首を傾けてパチパチと瞬きを繰り返す。
昨日着ていた薄いドレスではなく、ホグワーツの制服。
しかもグリフィンドールの制服だ。


「駄目に決まってんだろ!ホグワーツの生徒じゃないくせに」

「この格好なのに生徒じゃないと思うの?」

「人間じゃないだろ、お前」

「あら、此処には獣人が居るのにそんな事言うのね」


その言葉に肩が跳ねたのが自分でも解る。
獣人、人と人以外の姿を持つ者の事。
医務室で今頃寝ている親友の顔が浮かび上がる。
知られてはならない、俺達だけの秘密。
体を回転させ、掴んだ杖を真っ直ぐに向けた。
心の中にあるのは焦りと不安。


「どうしてお前が知ってる?」

「解るわよ、狼の気配位。それと私の名前は名前よ」

「…お前何者だ?」

「知りたい?」


杖を突きつけられていると言うのに全く気にしていない。
それどころか白く細い指が俺の腹を撫でる。
うっとりと細められ、赤い唇は綺麗な弧を描く。
そしてまたしても腕が勝手に動き、杖は下げられた。
体が全く動かない状態で腹の上には得体の知れない女。
そして此処は男子寮の中にある自分の部屋のベッド。


「そんなにあの獣人が大事?」

「リーマスを、そんな風に、呼ぶな!」


グッと力を入れた腕を突き出して女の首を絞めた。
一瞬驚いたように目を見開いたけれど、次の瞬間にはまた笑みを浮かべる。
確かに力を込めている筈なのに苦しそうにする様子は見られない。
平気そうに弧を描いている唇に思わず手の力が弱まる。


「もっと力を込めても良いのよ。貴方なんかに私を殺せはしないわ」


その言葉と同時に茶色かった瞳がゆっくりと赤くなっていく。
腕を掴まれて簡単に首から剥がされてしまう。
体は動くけれど、掴まれた腕だけはピクリとも動かない。


「お前何者だ?」

「私は、悪魔」


あくま、と口の中だけで反芻する。
沢山の魔法生物が居るけれど、悪魔は知らない。
居てもおかしくはないとは思っていた。
マグルの本で見た悪魔の絵で見た悪魔の姿は知っている。
それなのに、目の前の女は人間と何も変わらない姿。ただ、赤い瞳が違うだけ。
スッと白い手が頬を撫でていく。


「あの獣人…睨まないでちょうだい。名前何だったかしら?」

「リーマス」

「リーマス、ね。彼の事はどうだって良いのよ」

「言わない、のか?」

「私には何の得も興味も無いもの。興味があるのは貴方」


頬を撫でていた手が止まったと思ったら親指で唇を撫でられる。
今までにやった事はあるけれど、まさかやられるとは思わなかった。
警戒を強めて赤い瞳を見つめ返す。


「そんなに警戒しなくても、取って食べたりしないわ」


今はね、と呟いた瞬間赤かった瞳が茶色くなっていく。
掴まれていた腕を引っ張られ、起こされたと思ったらパチンと指を鳴らす音がした。
上半身裸だった俺は全身パジャマ姿で、椅子の上に制服が畳まれて置いてある。
呆気に取られて目の前の女、悪魔を見つめると無邪気ににっこり笑う。


「シリウスが風邪を引くと私がつまらないもの。今夜は冷えるらしいから、温かくして寝るのよ」


そう言った次の瞬間にはもう姿が消えていて、ジェームズの寝言が聞こえてきた。
ベッドから降りてピッチャーからグラスに注いだ水を一気に飲み干す。
剥き出しのピーターに毛布を掛けてやり、ジェームズにも同様の事をする。
夢の中でもエバンズの事を考えているのか顔はニヤニヤとだらしない。
ベッドに戻ってカーテンを引くと、そこは変わらない自分のベッドの上だった。




(20130702)
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