「あらリーマス、体調はもう良いの?」


明るい声を自然と耳が拾ってしまう。
リーマスのお礼を言う声も一緒に。


「この時期に風邪だなんて大変ねぇ」

「もう慣れてるよ。それに元気になったし」

「そう?良かったわ」


そう言って笑う名前は何処からどう見ても友人の無事を確認して安堵した表情。
相変わらず猫被りが上手だな、と心の中で思った瞬間名前を呼ばれた。
きっと今心の中で思った事なんてお見通しなのだろう。
読んでいる本から目を離さずに返事をすると顔の両側に手が現れ、首に回されたと思ったら肩に名前の顔が乗せられた。


「あら、読書なんて珍しいわね。しかも変身術」

「良いだろ、別に」

「悪いなんて言ってないわ」

「じゃあ邪魔すんな」


手を引き剥がすと残念ねぇなんて言葉が聞こえてくる。
別に真剣に読んでいる訳じゃ無い。
ただ手持ち無沙汰だったから、読んでいるだけだ。
だが、それを理由にこの悪魔の相手をしなくて済むなら幾らでも読んでいられる気がする。


「名前にもっと優しくしなきゃ駄目じゃないか!」

「まあ!良い事言うわジェームズ!」

「勿論さ。僕はいつだって女の子の味方だよ」


そう言って名前の手を取って恭しく礼をしてみせるジェームズ。
満更でもない名前の様子に何故ジェームズを追い掛けないのかと思ってしまう。
しかし以前に追い掛けられるより追い掛けた方が楽しいと言っていた。
確かに、年中エヴァンズを追い掛けているから惹かれないのかもしれない。


「あ!やあリリー!」

「名前、こんな所に居たのね。探したのよ」

「あらリリー。どうしたの?」

「スラグホーン先生にお誘いを受けていたじゃない。そろそろ行かなきゃ間に合わないわ」

「ああ、そうね。シリウス、話があるからまた後でね」


つい顔を上げてしまい、ニッコリと笑った名前の顔を見てしまった。
どうかまた男子寮に現れたりしませんように、と心の中で願う。
そして、今日のエヴァンズはジェームズの存在を認識しない事に決めたらしい。




後でと言った割にいつまで経っても現れる気配もなく、もう直ぐ消灯時間だった。
談話室も静かになってきて、暖炉の火も今にも消えそうになっている。
待っている訳では無いが、部屋に押しかけられる位なら談話室の方が良い。
薪を二つ放り込むと暖炉の火はだんだん大きくなっていく。
ぼんやりと火を眺めていると小腹が空いてきた。
フライパンがあればベーコンでも焼いて食べるのも良い。
でもやっぱりチキンも良いし、偶にはエクレアや糖蜜タルトはどうだろう。
夕食は満足するまで食べた筈なのに、変な時間に空腹感に襲われる。


「チキン?エクレア?ベーコン?」

「なっ!ん、だよ…お前か」

「ふふ、お待たせ。チキン焼いてたら時間掛かっちゃって」


そう言った名前はバスケットを持ち上げてみせた。
そして指を鳴らすと暖炉の前に小さなテーブルが現れる。
そのテーブルの上に次々とチキンにエクレアにベーコン等が並べられていく。
バスケットの中には何でもあるんじゃないかという品揃えだ。


「好きなのどうぞ」

「…変な物は」

「入ってないわよ。ちょっと位は信じて欲しいわー」


試しにクッキーを一枚食べてみるが、何も異変は無い。
空腹感に襲われている今手を伸ばさない理由は無かった。


「で、話って何だよ」

「ああ、特に無いの」

「は?」

「シリウスが色々聞きたい事があるんじゃないかと思って」


笑顔を浮かべていつの間に出したのかワイングラスを傾ける。
そしてチーズを指で摘みながらリーマスの事とかと呟く。
確かに聞こうと思っていたが、名前から話を振ってくるとは思わなかった。
これは俺の質問に答える気があるという事だろうか。
気まぐれな悪魔の事だから、それも有り得るかもしれない。


「リーマスを変身しないように頼まれてるんだよな」

「あ、やっぱりその話?それは残念ながら言えないのよ」

「答える気が無いんじゃなくてか?」

「答えられないの。口止めされててねぇ」


そう言うと名前はつまんないという顔でチーズを口の中に放り込む。
またワインを流し込みながら他には?と首を傾けた。


「お前、昔俺と会ってるか?」

「やっと思い出してくれたのね!」


パアッと嬉しそうに笑いながら両手を叩く。
やはり、あの夢で見た人物は目の前の悪魔だった。
どうして今まで忘れていたのだろう。
昔名前は何度か家に来ていた筈なのに。


「いつ思い出してくれるかなって思ってたのよ。まあ、私も久しぶりに会うまで忘れてたんだけど」

「会った回数が少ないからだろ」

「でも、会ったって事が大事じゃない。運命だわ」

「悪魔が運命とか言うなよ」

「良いじゃない、別に」


ふふふ、と笑いながら隣に座り直した名前の手が腕に回された。
振り払うのも何だか面倒でそのままに新しいチキンに手を伸ばす。
此処は談話室で、確かまだ何人か生徒が残っていた筈だ。
それなのに堂々とワインを飲んでくっ付いてくるなんて。


「ん?おい、此処は何処だ」

「私の屋敷よ。グリフィンドールの談話室と同じにしてみたの」


良いでしょ?とにこにこする名前に大きな溜息で返した。




(20140308)
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