いつもみたいにジェームズ達と一緒に校庭を散歩していた。
その筈なのに気が付けば禁じられた森の中に居る。
そう感じただけでもしかしたら違う森かもしれない。


動かないように周囲の気配を探ってみる。
人の気配は感じられず、どうやら誰も居ないようだ。
それに、夜だった筈なのに此処は不思議と明るい。
立ち上がって何の苦もなく辺りを見渡せる位の明るさ。
木だけしか見えず、他には何も無い。
ジェームズにリーマス、ピーターは何処だろう。


探さなければ、という気持ちでとにかく歩き出す。
出口も方角も解らないけれど歩かなければ見つからない。
動物の声や音もしない森の中を勘だけで進む。
どれだけ進んでも明るさは変わらず、先の暗闇も変わらない。
相変わらず人や動物の気配も全く感じられず、ただ一人。
どうやら此処は禁じられた森とは違う森のような気がする。


「誰か居るか?」


広い森に声が響いて消えていった。
返事も無く、相変わらず気配も感じられない。
景色が変わる事も無く、空は木に覆われている。


どれ程の距離を歩いたか解らないけれど、かなり歩いた。
何の変化も無くて少しだけ嫌になってくる。
ジェームズ達は俺が居ないと気付いただろうか。
それなら今頃探しているかもしれない。
けれど、今日は満月だ。
探す余裕は無いかもしれない。


「あら、迷い込んだのね」


いきなり聞こえた声に慌てて振り返った。
気配も何も感じなかったのに、誰かが居る。
杖を構えて目を凝らすと、どうやら女が一人。
真っ黒な長い髪の毛に、赤い光りを放つ瞳。


「お前、誰だ?」

「自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら?それに、そんな物騒な物私に向けないで」


女が瞬きをすると先程までは光っていた瞳が茶色になっていた。
そしてパチンと指の鳴る音がしたと思ったら手が勝手に動く。
杖を構えていた腕が自分の意思に反して下がってしまい、上げようとしても動かない。


「今のは何の呪文だ」

「貴方には解らないわ。それで、貴方の名前は?」

「…シリウス・ブラック」

「ああ、オリオンの息子なの」


いきなり出た父親の名前に思わず顔が歪むのが解る。
父親の名前を知っているという事は知り合いだろうか。
けれど、目の前の女は同じ位の年齢に見える。
もしかしてこの女は父親の同級生の子供だろうか。


「親子揃って迷い込むのね」

「お前は誰だ?此処は何処だ?」

「私は名前。此処は私の森よ」


いきなり名前と名乗った女が背中を向け歩き出す。
慌ててその背中を追い掛ける。
何か知っている女に出会えたのだ。
迷い無く進む背中を見失わないように必死。
俺よりも背が低いし足も短いのに追い付けない。


「お前の森って、どういう事だ?禁じられた森じゃないのか?」

「違うわ。それに、今は森の姿をしてるだけ」


いきなり立ち止まり、首だけで振り返って笑顔を浮かべた。
そして指を鳴らしたと思うと辺りがいつの間にかグリフィンドールの談話室になっている。
暖炉や絨毯、机やソファーの位置まで同じ。
ただやはり人の気配は無く、肖像画でさえ誰も居ない。
優雅な動きでソファーに座った女は長い足を汲む。
そして俺に指を向けたと思ったら身体が勝手に動いた。
無理矢理ソファーに身体を沈められる。


「シリウス・ブラック」

「…何だよ」

「貴方は今私に対する疑問で一杯でしょうね」

「聞いたら答えてくれるのか?」

「そういう強気な目は好きよ」


蠱惑的な笑みを浮かべて何処から現れたか解らないワインを飲む。
先程から何となく考えていた事、人間では無いのではないだろうか。
立ち上がろうとすると動かなくなる身体と戦いながら女を観察する。
長い髪に茶色の瞳、顔は整っていて男が見たら魅了されてしまうだろう。
ワインは空っぽになったと思ったら次の瞬間には満たされている。
それに疑問を持たないという事は女の仕業だろう。


「お前、人間か?」

「どうして?」


立ち上がった女は俺の隣に座って身体を押し付ける。
瞬きをすると茶色だった瞳が再び赤く光り出した。


「その目、」

「あら、人間にだって赤い瞳は居るわよ。それに、私が何だろうと良いじゃない」

「…やっぱり人間じゃないんだな」


グッと力を込めて腕を動かす。
徐々に動くようになった身体に精一杯力を入れる。
女の身体を引き剥がして立ち上がった。
どうにか距離を取らなければ、と思う。
けれど、女が俺の名前を呼んだ瞬間身体がまた動かなくなる。


「私を置いて帰るの?酷いわ」


目の前に来た女は泣きそうな顔でそう言って俺の首に腕を回した。
唇が触れそうな程顔を近付けられ、赤い瞳に自分の顔が映っているのが見える。


「ねえシリウス、私と偶にこうして遊んでくれない?私、暇なのよ」

「…断る」

「あら、残念。また今度口説く事にするわ」


今まで泣きそうだったのが嘘かのように女は赤い唇を引き上げて怪しく微笑む。
今度は無いのだと言おうとしたのに、何故か意識が遠退いていく。
意識を手放す瞬間までクスクスと楽しそうに笑う声だけが聞こえていた。




(20130628)
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