賑やかな観客席、白熱する実況、風のように飛び回る選手。
双眼鏡でジェームズの動きを追いながらシーカーがスニッチを掴み損ねた事に思わず声が出る。


「今のは惜しかったね」

「本当だな。今何点差だ?」

「あ、30点差だよ」

「30点?」


ピーターの言葉に得点表を確認するとその通りだった。
先程までもう少し点差があったような気がする。
その時誰かがスニッチを見つけたと叫び、再び双眼鏡を覗く。
シーカーは全速力で飛び、ブラッジャーをギリギリで交わす。
グリフィンドールの観客席から歓声が沸き起こるのとホイッスルが鳴るのはほぼ同時だった。


談話室でのパーティーの主役はクィディッチの選手達。
ジェームズはもみくちゃにされていてくしゃくしゃの髪は更にくしゃくしゃになっている。
グリフィンドールの優勝を決めたのだから選手は皆が皆似たようなものだった。


「やあシリウス!あれ?リーマスとピーターは?」

「リーマスは調子が悪いって部屋に居る。ピーターはあそこだ」


指差した先には上級生の輪に巻き込まれているピーター。
それを見て納得した声を上げたジェームズはキョロキョロと辺りを見渡す。きっと次にジェームズの口から出る言葉はエバンズは?なのだろう。


「名前は居ないのかい?」

「…は?」

「いや、君が一人なら近くに居るかと思ったんだけど」


そういえば、朝から一度も姿を見てない。
てっきりエバンズと一緒に居るかと思ったけれど見掛けた時に側には居なかった。
もしかしたら前みたいにまた何処かに出掛けて居るのかもしれない。
名前なら何処へだって直ぐに行って帰って来られる。


「別にいつも一緒な訳じゃ無いからな」

「それはそうだろうけど…まあ、名前が居ないなら気にせず渡せるって事だね」


そう言って目の前に差し出されたのは羊皮紙の切れ端。
ピンクのインクで場所と名前が書かれている。
その名前に見覚えは無く、何処の寮かも解らない。
眉を寄せているジェームズを見て、そんな顔をするなら渡さなければ良いのにと心の中で呟いた。


「相変わらずモテるねぇ、パッドフット」

「エバンズにはモテねえけどな」

「なっ…!リリーは君なんかタイプじゃ無いよ!」

「エバンズなら窓際に居るぞ、プロングズ」


尚もぎゃんぎゃんと騒ぎ続けるジェームズを無視して立ち上がる。
顔はさっぱり解らないがとりあえず会うだけ会ってみよう。




談話室に戻るとすっかりパーティーは終わった後だった。
テーブルの上に残っていたクラッカーを口の中に入れるとふわりと甘い香りがする。
甘ったるい香水では無かったものの、甘い香りに変わりは無かった。
結局今日の相手だってブラックの名前が目的なだけ。
チラチラと見え隠れする家の名前に吐き気がした。


さっさと着替えてしまおう、と談話室を後にして部屋の扉を開く。
いつものように自分のベッドに目を向けたところで自分の目を擦った。
何だか、お馴染みになってきたような気がする名前の姿がある。
しかもあの丈の短い貴族服で足を組んで座り、手にはワイングラス。
中身は勿論ワインが注がれていて、近くにあるボトルはもう半分になっていた。


「あら、お帰りなさい」

「何してんだ、お前」

「ワインを飲んでるのよ。今日オリオンがくれたの」


良いでしょ?と子供のように無邪気に笑ってグラスを傾ける。
そして空になったグラスに名前はまたワインを注いだ。
溜息を隠さずに吐いて何故か綺麗に畳まれているパジャマに手を伸ばす。
恐らく、と言うか間違い無く名前が畳んだのだろう。


「やだ、ストリップ?」

「しねえよ!見るなよ!」

「見られたらマズい痕でもあるのかしら?」

「…別にねえよ」


名前に背を向けて着替え始めるとヒヤッとした空気に触れて体が震えた。
さっさとパジャマを着てしまおうと腕を通した時、名前の指が首をなぞる。
あんなに長い爪なのに、皮膚に全く触れないのは不思議だ。
着替え終えて手を振り払うと名前はクスクスと笑ってまたグラスを傾ける。


「俺のベッドはお前の酒飲み場じゃねえんだぞ」

「知ってる」


さらりと何でもないように言うから言い返す言葉も出て来ない。
とにかく無視して眠ってしまおうとベッドに潜り込む。
毛布を掛けて名前に背を向けると背後から指を鳴らす音がした。
嫌な予感がすると思いながら瞼を持ち上げるといつか見た広いベッドの上。
相変わらず名前はご機嫌な様子でワインを飲んでいる。


「寝るなら、寝ても良いわよ?」

「…お前、また何かしただろ。眠くねえ」

「あら、じゃあ楽しいコトする?」

「しねえ!上に乗ろうとすんな!」


つまんないの、と言った名前の服に付いていたリボンがスルッと解けた。
何となくリボンに手を伸ばして結び直してやる。
どうしてそんな気になったのかはさっぱり解らない。


「なあ、この服はお前の趣味か?」

「ああ、これ?これは昔オリオンがくれたのよ」

「…あいつの趣味かよ」

「似合うでしょ?」


ベッドから立ち上がってくるりと一回転。
先程までそこに床は無かった筈なのに。
どう?と首を傾げるから別にと答えると名前は怒り出す。
悪魔でなければ良いスタイルだと思うけれど。


「ん?お前、今日あいつの所に行ってたのか?」

「そうよ。来い来いって煩くてねぇ」

「あいつを追い掛けたら良いじゃねえか。求められてるんだろ?」

「オリオンは嫌いじゃ無いけど、簡単に手には入っちゃったらつまんないでしょ?」

「楽出来るだろ?」

「それじゃあ意味無いのよシリウス」


ツン、と額を指で突っつかれただけなのに、ベッドへと沈み込む。
起き上がろうとすると毛布を掛けられて名前に頭を撫でられる。
にっこり笑った名前が歌い出した歌は聞いた事の無い、けれど何故か懐かしい気持ちになる歌だった。




(20131026)
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