「じゃあ、次はゾンコ?」

「ゾンコよりハニーデュークスが良いわ」

「うん、僕も名前は賛成だよ」

「二人で行ってきたら良いだろ」

「おやおやシリウス、名前をリーマスと二人きりにしてしまって良いのかい?」


ニヤニヤと笑うジェームズをとりあえず黙らせる。
パクパクと口を動かして必死に何かを訴えるジェームズ。
俺が相手にしないでいるとピーターの肩を掴んで揺らし始めた。
ガクガクと揺さぶられてピーターは喋れないらしい。


「シリウスもハニーデュークス行きましょう?」

「何で俺が」

「だってシリウス背が高いからもしはぐれても直ぐ見つけられるし」

「どんな理由だよ。俺は目印じゃねえぞ」


えー、と不満気な声を上げる名前の頭を一度だけ撫でる。
頭を撫でるととりあえず満足するというのを発見したのはつい最近。
この場合は大人しくリーマスと二人で行けという意味。
案の定解った、と二人で行く事を了承した。
茶色の瞳は相変わらず不満そうにしているけれど。


「ゾンコでの買い物が終わったら来てね?」

「解ったからさっさと行け」


しっしっ、と手を振ると名前はべーっと舌を出すとリーマスの手を引いて去っていった。
本性は悪魔のくせに、舌を出すなんてまるで子供じゃないか。
変なやつだとは解っていた筈なのに、言葉が出なくなってしまった。


「名前はシリウスと一緒に行きたかっただろうねぇ」

「何が言いたいんだ、ジェームズ」

「べっつにぃ?」

「あ、あの、行こうよ」


何か言いた気のジェームズに少し苛立ちを覚えた瞬間、ピーターが俺の腕を掴んだ。
ジェームズの腕も同じように掴んで行こうという風に引っ張る。
珍しい行動に驚きながら自分で歩けるからとピーターの腕を振り払った。


ゾンコで存分に買い物をして何故かジェームズに急かされるままハニーデュークスへと急ぐ。
ジェームズは何かにつけて俺と名前をくっつけたがるけれど、やはりエバンズ関連の下心があるのだろうか。
どちらかと言えば名前の機嫌取りの為にやっているような気がしてならない。
ハニーデュークスに着くと店の前に名前がポツンと立っていた。
首に巻かれている真っ赤なマフラーがとても目立つ。


「あ、やっと来たわ」

「あれ?名前一人?リーマスは?」

「リーマスなら中よ。まだ商品見てるわ」


名前の指差した先には真剣な顔で新商品の棚を見るリーマスの姿。
その手にはもう既に大量のチョコレートが握られている。
見ているだけでもう充分だと思う量も、リーマスには少しなのだろう。
リーマスから目を逸らして名前の手元を見ると何も持っていない。
あんなに行きたがっていたからてっきり沢山買うと思ったのに。


「お前、何も買わ…」

「シリウス!名前と先に三本の箒に行っててよ。僕とピーターはリーマスを連れて後から行くから」

「は?別に待てば、」

「良いから行くんだ。ほら、早く」


悉く俺の言葉を遮ったジェームズはさっさと行けとばかりに背中を押す。
仕方無く名前と並んで三本の箒を目指す事にした。
腕に絡みついてくる名前を引き剥がしながら一歩一歩進む。
ホグズミードはホグワーツの生徒で混んでいるけれど、名前ならはぐれても平気だろう。


「あ、レギュラス!」


相変わらず俺の腕に引っ付いていた名前が突然嬉しそうな声を上げた。
名前の口から出た名前に恐る恐る見ると其処には弟が立っている。
俺と同じ灰色の瞳が此方を見た瞬間、レギュラスの眉間に皺が寄った。
けれどそれもほんの一瞬の事で、直ぐに目も逸らされて名前を見つめる。
名前はそんなレギュラスを嬉しそうに抱き締めて頭を撫で回す。


「こんにちは、名前さん」

「あら、レギュラス、少し背が伸びたかしら?」

「そうですか?自分ではよく解りません」

「伸びたわよ。私を追い抜くのも時間の問題ねぇ」


頭を撫でられているレギュラスは俺の見た事の無い顔をしている。
いや、昔は、俺にも見せてくれていたかもしれない。
俺がホグワーツに入って暫くしてから、見なくなった。


「父上が心配しておりました。グリフィンドールで不便は無いかと」

「まあ。オリオンさんに手紙書かなきゃいけないわね」

「僕の梟を使って下さい。今晩にでも名前さんの元へ送ります」

「大丈夫よ、有難う。あ、そうだわ。一緒に三本の箒に行きましょうよ」

「おい、名前」


飛び出た言葉を何とか実行させないようにと声を掛ける。
けれど名前は俺を無視してレギュラスに更に誘いの言葉を重ねた。
その瞬間にレギュラスの瞳が真っ直ぐに此方を向く。
そこに感情は読み取れず、ただ見つめ返す。


「名前さん、お誘いは嬉しいんですが、今回は遠慮しておきます」

「そう?残念ね」

「また誘って下さい。それでは」


礼儀正しくお辞儀をして去っていくレギュラスに名前は手を振る。
言葉には出さなかったけれど、間違い無く俺が居たから誘いに乗らなかった。
そんなのは今に始まった事じゃない。


「随分嫌われてるのねぇ、シリウス」

「そりゃあそうだろうな。お優しい母上様が俺に近付くなって言ってんだから」

「でも、レギュラスの事気になるんでしょう?」


その質問には答える気が起こらなかった。
確かにレギュラスの事は切り離せない。
あいつは昔の俺自身で、親の操り人形だ。
その一方で闇の魔術を勉強し、ヴォルデモートに憧れている。
切り離したいけど切り離せない、それがレギュラス。
名前はきっと俺のそんな気持ちを知っていて聞いている。


「レギュラス、救ってあげられるけど?」

「その代わり俺に眷属になれって言うんだろ」

「それも良いわねぇ。でも、レギュラスを眷属にするっていう方法もあるわよ。レギュラスも綺麗な顔だし、充分私好みだわ」

「レギュラスに手を出すな!あいつは関係無いだろ!」

「あらあら、優しいお兄様だわ」


冗談よ、と名前が笑いながら俺の頬を撫でた。
俺は別に優しくない、と呟いても名前はただ笑うだけ。
からかわれていると解っても反発せずにいられない。
頬を撫でる手を掴んで辞めさせるとクスリと笑われた。


「三本の箒まで面倒ねぇ。シリウス、飛ぶわよ」

「は?」

「ちゃんと捕まって」


どういう事だと問い掛ける暇も無く名前が地面を蹴る。
手が繋がっているから自然と俺も一緒に宙に浮く。
二人の人間が箒も無しで飛んだのに周りは全く気にしない。
建物より高く飛び上がったと思ったら直ぐに落下し始める。
地面が近くなった瞬間速度が落ちて、何も無かったように着地した。
目の前にはよく知った三本の箒の入り口。


「さ、入りましょうか。席空いてるかしら」

「…お前、見られたらどうするんだよ」

「あら平気よ。その気にならなきゃ見えないもの」


早く、と腕を引かれて仕方無く賑やかな店内に足を踏み入れた。




(20130825)
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