寮の部屋にシリウスの姿が無かったからふらふらと校内を歩いて探す。
特に急ぎの用事がある訳でも無いけれど、やる事も無くて気が向いたのだ。
ジェームズはエバンズの元へ行ってしまったしピーターは片付けが終わっていない。
だから一人で歩いているけれど、ホグワーツをこうして一人歩くのは久しぶりな気がする。
あの三人の誰かが一常に緒に居るような気がするのはそれだけいつも一緒なのだろう。


立ち止まって雪の積もった校庭を眺める。
雪は降っていないけれど、寒そうだ。
外には居ないかもしれないと思ったのに、人影が動く。
黒い髪の二人組は大きな雪玉を転がしている。


覚悟を決めて外に出ると一気に冷気が肌を刺す。
マントを持ってくれば良かったと後悔してパーカーのフードを被る。
マフラーだけは巻いてきて正解だった。
固い雪を踏み締めながら二人へと近付く。
近付くと幾つも雪だるまが出来上がっているのが見えた。
どれも顔が描かれているけれど、笑顔は一つも無い。
もしかしたらシリウスが描いたんじゃないかという顔。


相変わらず雪玉を転がしながらどうやら会話をしているらしい。
名前は楽しそうに笑っていて、シリウスはいつものように面倒そうな顔をしている。
シリウスの首元が目に入って思わずドキリとした。
あのグレーのマフラーは名前が編んでいた物。
やっぱり、あれはシリウスへのプレゼントだったのだ。


「あら、リーマス帰ってきたの?お帰りなさい」

「おー、お帰り」

「あ…うん、ただいま」


二人が一斉に僕を見てにっこりと笑う。
お帰り、という言葉が何だかとてもむず痒い。
でもとても嬉しくて自然と顔が緩んだ。


「リーマスも一緒にどう?」

「雪だるま、まだ作るの?」

「こいつが作るって聞かねえんだよ」

「あら、私に負けない位大きいの作るって言ったじゃない」

「言ってねえよ。大体さっき作ったのは俺の方が大きかっただろ」

「それならさっき崩れたわよ」

「は?勝手に崩れる訳…お前何かしただろ!」

「してないわよ。失礼ね」

「表情と言葉が一致してねえぞ!」

「いっけなーい」


僕の存在をすっかり忘れたのかギャーギャー騒ぐ二人に思わず笑いが込み上げる。
全く変わらない二人に何だかホッとしてしまって込み上げるままに笑う。
一人で笑う僕に小さな雪玉を投げ合う二人。
雪だるま作りはいつの間にか雪合戦へと変わったらしい。
シリウスの投げる球はとてもじゃないけど女の子相手とは思えない早さ。
名前が杖を振ると一瞬で雪の壁が出来てその陰で名前は雪玉を作る。


「やあやあリーマス!シリウスと名前は楽しそうな事をしてるね!」

「ジェームズ!ピーターの首締まってる!」

「え?それは大変だ!」


恐らくジェームズに襟を掴まれて引き摺られて来たのだろう。
ジェームズが手を離した瞬間に咳き込むピーターの背中を撫でる。


「ごめんよピーター、大丈夫かい?」

「うん、大丈夫。ちょっと苦しかった、けど」

「ところでリーマス、あの二人は何を楽しそうな事しているんだい?」

「ああ、何か、雪だるま作ってたんだけど、口喧嘩してから雪合戦に変わったみたい」


言い終わるや否や僕も混ぜてよ!とジェームズが走っていく。
すると何故か名前とシリウスがジェームズに雪玉をぶつけ始めた。
酷い酷いと騒ぐジェームズも負けじと雪玉を投げる。


「ピーター、君も混ざったら?」

「いや、でも、何か恐いし」

「ああ、うん。確かにね」


凄いスピードで飛び交う雪玉の中には確かに入りたくない。
地面の雪を溶かして座る場所を作るとピーターと並んで座った。


「マフラー、やっぱりシリウスのだったんだよね」

「そうみたいだね」

「珍しいよね、シリウスが女の子からのプレゼント、使うの」


確かにいつもシリウスは女の子からのプレゼントは受け取らない。
受け取ったとしても使わず部屋に積まれたままになっている。
じゃあやっぱり、名前はシリウスにとって特別な女の子なのだろうか。
そういえば、前にジェームズが名前について何か言っていたような。
何を言っていたのか記憶を漁って見ても思い出せない。
確か、忍びの地図を持って何か言っていた気がする。


「あー疲れちゃったわ。あら、地面に直接座ってるの?」


此方にやってきた名前が杖を振るといつの間にかシートが敷かれていた。
座った名前がもう一度杖を振ると今度はゴブレットが現れて頭をつつく。
捕まえて中身を確認すれば温かいココアだった。
なかなか捕まえられないピーターは相変わらず頭をつつかれている。


「すっかり冷えちゃったわ」

「名前、素手で雪触ってたの?」

「手袋してたわよ。それでもやっぱり駄目ね」

「そっか。これで温めると良いよ」

「有難うリーマス」


僕が出した魔法の火に手をかざして名前は微笑む。
その時やっとゴブレットを捕まえたピーターが喜びの声を上げた。
にこにこしてそれを見る名前にピーターも笑顔を浮かべる。
そういえば、何か考えていたんじゃなかっただろうか。
そんな気がするだけでぼんやり見ていただけだったかもしれない。


「ピーター、課題は終わった?」

「あ、あのね、後魔法薬のレポートだけ残ってるんだ」

「あら、じゃあ明日にでも一緒にやりましょう」

「うん!」


きっと、そのうちふとした瞬間に思い出すだろう。
ピーターと名前の会話を聞きながらゴブレットを傾ける。
今はこの甘い甘いココアを楽しむ事にしよう。
シリウスの顔に思い切り雪玉がぶつかって真っ白になった。
次の瞬間、ケラケラ笑うジェームズの頭の上に大きな雪玉が現れ、そのまま真下へ。
同じように頭から真っ白になったジェームズもシリウスもポカンとしている。
ただ一人、名前がニッコリしていてその横でピーターが笑いを堪えていた。


「名前、何かした?」

「私は少し杖を振っただけよ。手元が狂っちゃったかしら」

「いや、狂ってないと思うよ。正確そのものだ」

「うん、僕もそう思う」

「ふふ、有難うリーマス、ピーター」


小声でリリーに頼まれたら、とか何とか聞こえたような気がする。
これをジェームズが知ったら何て言うだろう。
喜ぶか、怒るか、それとも嘆くか。
どれでも面倒な事に変わりは無いのだけど。


「あーさっみい。名前、俺にもココア」

「あっまーいやつ?」

「馬鹿、違えよ」


コツンとシリウスの手が名前の頭を軽く打つ。
呆れたようなシリウスの顔と嬉しそうな名前の顔。
まるで恋人のようだと、思った。




(20130822)
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