目を開けるといつもの部屋ではなくて少し驚いた。
けれど此処は以前暮らしていた部屋だから見慣れない訳ではない。
うんと伸びをして久しぶりに使うキッチンの前に立った。
どうにも名前の顔を見ないと調子が出ない。
と言ってもそれはフレッドか名前しか解らないだろう。
ベリティは相変わらずお元気ですねと笑っていた。
もっと長い時間離れていた事もあるのに。
すっかり名前から離れられなくなっている自分に思わず笑いが零れた。
「どうした相棒。白昼夢呪文でも使ったか?」
ニヤニヤとしているフレッドの肩に軽くパンチを入れる。
フレッドには俺が何を考えているかなんて簡単に解るだろう。
姿現しをして直ぐに飛び込んで来た灯りに慌てて玄関を開けた。
ソファーに座って此方を振り返った名前に近付いて思い切り抱き締める。
いつもとは違う、ビルと同じシャンプーの香りがした。
「お帰りなさい」
「ただいま。名前もお帰り」
瞼、頬、唇の順番でキスをして改めて顔を見る。
再び抱き締めようとしたら細い腕に胸を押されて止められた。
「ジョージ、大事な話があるの」
そう言って名前は不安そうな顔で俯いてしまう。
もしかして悪い話なのだろうか、と不安に心臓が騒ぎ出す。
それを誤魔化すように名前の手を取ってしっかりと握る。
僅かに顔を上げた名前が小さく息を吐いて、吸い込む。
「赤ちゃんが、出来たの」
そんなに長くもなく難しくもない言葉なのに、理解が追いつかない。
不安そうな名前の顔が目に入って何か言わなければ、と思う。
でも頭は動いてくれなくてなかなか言うべき言葉が出て来ない。
必死で言葉を噛み砕いて理解出来ると今度は喜びが湧き上がってくる。
「名前、それ本当?」
「うん」
まだ不安そうな顔をしている名前を思い切り抱き締めた。
驚いたような声を上げ、離れようと俺の胸を押す腕ごと。
「有難う名前!嬉しいよ!」
「本当?産んで良いの?」
「勿論。駄目な訳がないよ」
少し腕の力を緩めると名前が顔を上げた。
相変わらずの不安そうな顔に片手を添える。
触れた体温はやっぱりいつもより高い。
「ジョージ、よく考えて欲しいの。子供…人間を育てるのよ?親になるのよ?」
「うん、解ってるよ」
名前の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でる。
胸に置かれている名前の手がピクリと動いた。
「俺は産んで欲しいと思ってるよ。勿論不安がない訳じゃない。驚いてるし。でも、それよりも嬉しくて仕方ないんだ」
「ジョージ」
「俺、色々頑張るよ。名前の助けになれるように」
「…うん」
小さく頷いた名前にキスをするとふわっと名前が笑う。
この笑顔を見ていられるなら何だって出来るような気がしてくる。
昔から変わらない、俺の元気の源。
(20130715)
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