眠いという名前の代わりに作った料理はなかなかだった。
勿論俺が作るよりも名前が作った方が断然美味しいのだけど。
片付けも請け負った俺に名前は少し困った顔をした。
最後の皿を片付け終えて振り返ると眠そうに目を擦っている。
手には最近読んでいる小説の本、膝には昔から使っているブランケット。
昔ビルに貰ったというブランケットは名前にとてもよく似合っている。
「名前、寝たら?」
「うん、でも続きが気になっちゃって」
「眠くない時に読んだ方が良いんじゃないの?」
「…そうね。そうするわ」
キラキラ、とブックマーカーのチャームが揺れて光った。
名前の手から本を取り上げて机に置く。
「そういえば、今日ドラコに会ったわ」
「やっぱり?店に来たよ」
「あら、そうなの?珍しいわね」
「じゃあこれはマルフォイに貰ったの?」
帰ってきた時に目に付いた高そうな箱。
店に来た時は持っていなかったような気がする。
という事は名前に会いに行く前に用意したのだろう。
腕を伸ばした名前がその箱を開ける。
「ヴィクトワールの事で心配してくれたみたい」
箱の中身は見るからに高そうなチョコレートが並んでいた。
甘い香りがするそれを名前は一粒指で摘む。
そのまま自分で食べるかと思ったのに、名前は俺の口の中に放り込んだ。
途端に口内に広がる甘さは普段食べるチョコレートよりも控えめ。
「美味しい?」
「うん」
同じ様にして名前の口にチョコレートを放り込む。
美味しいと笑う名前にキスをするとチョコレート味だった。
手作りのサンドイッチは昔から何度食べても飽きない。
名前が作ってくれている今、飽きる事なんてないけれど。
卵や野菜、チキンが入ったサンドイッチは充分なボリューム。
今日も自分で淹れた紅茶と一緒にサンドイッチをかじる。
次の一口を、と思った瞬間窓から何かが飛び込んできた。
「昨日はマルフォイで今日はチェシャーか。名前のナイトってとこか?」
手紙を見て貰おうと足を突き出して翼をバサバサと動かすチェシャー。
抜けた羽根がサンドイッチの上に乗るのを見てフレッドがニヤリと笑った。
チェシャーの足から手紙を外すと器用にサンドイッチの中のベーコンを引っこ抜いていく。
名前やビルの前ではチェシャーはこんな風じゃなかったと思う。
止まり木でベーコンを啄むのをチラリと見てから手紙を開いた。
名前の字で貝殻の家に泊まるとだけ書かれた手紙。
読み返すまでもないその手紙を呆然と見つめる。
別に名前が誰かの家に泊まるのは構わない。
それが例えばビルの家だとしても。
でもこんな風に当日に、理由も解らない事に少し戸惑ってしまう。
「名前、ビルのとこ泊まるのか。ヴィクトワールに会いに行くのかな?」
「ああ…そうかもな」
「寂しいのか、ジョージくん」
ん?ん?と言いながらニヤニヤ顔で顔を覗き込んで来るフレッドを押し退ける。
名前からの手紙を折り畳むと窓からチェシャーが飛び出していった。
(20130622)
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