商品の補充をしながら店内を歩いていると一瞬何かが目に留まった。
その正体は何だろう、と人混みをぐるりと見回す。
遠くでフレッドが女の子にピグミーパフを見せている。
レジではベリティが次から次へと並んでいる客を捌く。
気のせいか?と棚に目を戻そうとすると少し離れた所にマルフォイが立っているのを見つけた。


上質なのだろう生地で出来た深緑のローブを纏って立っている。
名前がいつも綺麗だと言う薄い青色の瞳は真っ直ぐ此方を見ていた。
この人混みと壁一面の悪戯グッズの中でその姿はとても似合わない。
目が合った事に気付くとマルフォイは人混みを掻き分けて進み始める。
隣に立つと、近くに置いてあるマグルの手品の箱を見て片眉を上げた。


「珍しい客だな。住所を教えた覚えはないけど?」

「こんな…派手な店は直ぐに解る」

「褒め言葉をどうも」


ニヤリと笑ってお礼を言えばマルフォイの片眉が上がる。
マルフォイの皮肉なんて聞き慣れているから気にする事もない。
補充が終わった棚から次の棚へ移動するとマルフォイも同じように移動する。
間違いなく商品を買いに来た訳ではないだろう。


「何か買いに来たのか?インスタント煙幕ならあっちだぞ」


以前の事を引き合いに出してみてもマルフォイは気にしないようだ。
それよりも話があると言われて思わず振り向く。
俺に話があるなんて珍しい、というか、有り得ない。


「俺?」

「ああ」

「名前じゃなくて?」

「そうだと言っているだろう」


イライラと言ったマルフォイに二階の存在を教えた。
躊躇うマルフォイの背中を押して二階へ行かせる。
杖を振って商品の補充を一気に終わらせて二階へと向かう。
フレッドに声を掛けるのも忘れずに。
大丈夫か?と言いたげなフレッドの肩を叩いた。


階段の一番上で困惑顔で立ち止まっていたマルフォイを部屋へ入れる。
適当に座れと言った言葉通りに座ったのを確認してキッチンに立つ。
フレッドも住んでいない今、殆ど使われていないキッチンは綺麗ではある。
名前やアンジェリーナが来て使ったり掃除をしてくれる位だろうか。
それか、偶にこうして俺やフレッドが使う事もある。


「ほら、紅茶だ」


マルフォイの顔はもっと綺麗なカップはないのかと言いたげだ。
残念な事に貴族様向けはある訳がないので気付かないフリをしてソファーに座る。
諦めてカップに口を付けたマルフォイの目はウロウロとしてある一点で止まった。


「それ可愛いだろ?」

「は?僕は別に、」

「ビルが撮った名前の写真。ビルはいつも名前のそんな顔見てたんだ。狡いよな」


何の気なしに言ったのだけど、マルフォイの肩がピクリと跳ねる。
ウィーズリー、と小さく呟いた声に俺も名前もウィーズリーだと心の中で呟く。


「名前は、元気か?」

「元気だけど…それ聞きに来たのか?」

「手紙が来た」


マルフォイの話によればビルに子供が生まれた事で名前が落ち込んでいるのではないかと心配だったらしい。
それだけでマルフォイをうちの店に来させてしまうのだから名前の影響はとても大きいのだろう。
それを考え出したら何だか笑えてきてしまって、そんな俺を見たマルフォイは顔を顰めた。


「名前に会っていけば良いだろ。今日は早く帰るって言ってたからもう家に居るんじゃないか」

「…帰る」


ムスッとした表情でバシンと音を立ててマルフォイが消える。
名前に会いに行ったのかもしれない。




遅くなってしまったなと時計を見ながら玄関を開ける。
点いているだろうと思った灯りは点いておらず、部屋は真っ暗。
とりあえず部屋を明るくするとソファーに名前の姿はあった。
珍しく仕事用のローブを着たまま眠っている。
机の上には包みが置いてあり、どう見ても高い物だ。
ソファーの前に座り込んで名前の額に触れる。
そう変わらない体温で、高熱がある訳ではないらしい。
顔に掛かった髪を払っていると名前の瞼が震えた。


「ん…ジョージ?」

「俺だよ」

「お帰りなさい」


ふにゃりと笑った名前の額にキスをする。
身体を起こした名前にいつもと違う所は見られない。
隣に座って頬に触れると不思議そうに首を傾げた。
顔色はいつもと変わらないように見える。


「体調悪い?」

「え?そんな事ないわよ?」

「それなら良いんだけど」


頬を撫でると心配性ねと笑われてしまった。
名前の事なら心配性にだってなる。
ギュッと抱き締めると名前の腕が背中に回った。




(20130622)
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