席に座って楽しそうにビルと踊っている名前を見る。
ビルと踊る前はマルフォイと踊っていた。
別に他の相手と踊るのはかまわない。
名前の薬指と俺の薬指にはちゃんと同じ物が填められているし。
ビルの薬指にだって、フラーと同じ物が存在を主張している。
明日からは俺が独り占めなのだから、今日は楽しんでくれたら良い。
チャーリーとシリウスとリーマスとフレッドとも踊らなきゃ!と張り切っていたからきっと終わる頃には名前はくたくただろう。
近くにあるグラスを引き寄せて中に入っていたワインを飲む。
名前の楽しそうな笑顔を見ながらだと美味しく感じる。
少し視線をズラせばお互いの両親がそれぞれ踊っていた。
名前の両親を見て確かに親子だと納得出来る。
上手く言い表せられないけれど、持っている雰囲気が同じなのだ。
名前は似てないよ、なんて言っていたけれど。
そんな事を思い出しながら見ていたら目の前に誰かが立った。
一体誰だ、と顔を上げると仏頂面のマルフォイが此方を見下ろしている。
「よう、マルフォイ」
「隣、座るぞ」
良いとも悪いとも返事をするより前にマルフォイは椅子を引く。
そして無言のままグラスに注がれたワインを流し込む。
いつも名前が綺麗だと言う薄い青色の瞳は踊っている名前を追い掛けている。
「名前は、どうしてお前を選んだんだろうな」
「俺が魅力的だったからだろ」
「そうか?僕にはビル・ウィーズリーの方が魅力的に見えるがな」
からかう訳でもなく、本当にそう思っているという言い方。
ビルが魅力的なのは確かだけど、マルフォイは何も知らない筈。
二人が会った事はあるけれど、そんなに会話しているようにも見えなかった。
マルフォイの言葉は面白くないけれどそれを悟られるのは面白くない。
「名前に振られたんだろ、坊ちゃん」
「振られるも何も、そもそも名前には言ってない。というか気付かない」
からかうつもりだったのにあっさりと返されてしまった。
以前のマルフォイなら間違いなく嫌味が帰ってくるだれう。
こんな風になったのはどう考えても名前の影響。
薄い青色の瞳は相変わらず名前を追い掛けたまま。
今度はシリウスとにこにこ笑いながら踊っている。
「名前を泣かせたら許さないからな」
「俺がそんな事する訳ないだろ」
「だとは思うがな」
「何が言いたい?」
「別に…ただ、名前が喜ぶんだ。お前やウィーズリー達と話していると」
急に此方を向いたマルフォイは見た事のない優しい表情をしていた。
俺やロン達と話をするのは名前の為だときっぱりと言う。
いつの間にこんなに成長していたのだろうか。
名前から聞いていたとはいえ、信じられないでいた。
けれど、確かに今目の前に聞いていたマルフォイが居る。
「名前は凄いな」
「何がだ?」
「ああ、俺の独り言だよ。気にするなケナガイタチくん」
少しだけ眉を寄せたマルフォイに少し満足した。
やっぱりこういう風に反応してくれなくちゃ。
「あら、此処に居たの?主役の癖に、シリウスに取られちゃってるじゃない!」
「あ、ちょっとシャロン」
「マルフォイとお話?」
「いや、僕は構わないぞ」
ぐいぐいと引っ張るシャロンに逆らえず、片眉を上げるマルフォイから離れる。
別に特に話す事がある訳ではないけれど、からかい足りない気持ちもあった。
でも、シャロンの力には敵わないし、抵抗する気にもならない。
シャロンは昔から友達だけど、チャーリーとの結婚によって今や姉でもある。
シャロンに連れて行かれた先にはシリウスとチャーリーに囲まれた名前が居た。
ちょうど踊り終えたのか、シリウスが名前の手の甲にキスをしている。
本人はとても嫌がるだろうけれど、その動作の優雅さに流石ブラック家だと思ってしまった。
シリウスに手を振る名前の反対側の手を握ると大好きな瞳が此方を向く。
「名前、俺と踊ろう?」
「良いわよ」
手を繋いで、反対側の手はお互いの体に回して、目が合うと自然と笑顔になる。
例え顔が緩んでいてだらしないと言われても今は構わなかった。
だって、ちゃんとした理由があって、それはとても俺にとって幸せな事。
先程までのマルフォイとのやりとりだって、もう気にならない。
「皆と踊れた?」
「ええ、バッチリよ。でも、シリウスが馬子にも衣装、だなんて言うのよ」
「そんな事ないよ。名前が一番綺麗」
「ふふ、有難うジョージ」
そう言って笑った名前は今日一番綺麗な気がした。
(20130427)
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