朝まで平気だったのに、いきなり緊張し始めて少し落ち着かない。
部屋の中を言ったり来たりしていたらフレッドに笑われてしまった。
人生で一番緊張しているんじゃないかと思う。


「いい加減落ち着けよ相棒」

「落ち着けるなら落ち着いてるさ」

「プロポーズした時みたいだな」

「ああ…どっちが緊張してるかな」


同じ位緊張してるよ、と笑いながら肩を叩かれた。
落ち着こう、と水を飲んで深呼吸をする。
そろそろ名前の様子を見に行こうか。
でもそれを考えると足が動かなくなってしまう。
本当に自分らしくないとは思うのだけど。


「ジョージ、名前の所行かなくて良いのか?」

「行くけど」

「綺麗だったぞ」


ニヤッと笑ったフレッドの言葉に押されたのか、やっと足が動き出す。
両親の部屋で準備をしている名前に会いに行く為に階段を降りる。
隠れ穴で結婚式をする事を望んだのは名前。
お互いの両親も勿論喜んでくれている。
本当に隠れ穴で良いのかと聞いたらビルと同じだから、と笑った。
名前の中でビルの居る場所は変わらない。


両親の部屋の近くまで来ると扉が閉まる音がした。
顔を上げて人物を確認すると大きく息を吐く。


「やあジョージ」

「…ビル」

「そんな顔するなよ。名前が待ってる」


扉を指差してビルがそう言う。
解ってはいるけど、複雑な気持ちになる。
ビルの事だってちゃんと好きなのに。
名前はちゃんとあの日頷いていた。


「俺、ビルにはずっとヤキモチ妬きそう」

「もう慣れたよ」

「名前の事誘惑するなよ」

「もし誘惑しても今の名前には効かないから」


自分で確かめろ、とビルは俺の肩を叩いて外へ出て行く。
背中が見えなくなるまでぼんやりと見送った。
ビルはいつでも大人で俺の事をよく解っている。
俺の言葉が素直な気持ちだという事もきっと解っているのだろう。
きっと俺はまだビルにヤキモチを妬く事を辞められない。


深呼吸をして扉をノックすると中からどうぞと声が返ってきた。
再び深呼吸をしていつもよりも時間を掛けて扉を開ける。
下げていた視線をゆっくりあげていくと、もう何も考えられなかった。


「あらジョージ、やっと来たのね」

「…」

「ジョージ?」

「あ、うん…名前、抱き締めて良い?」


考えられないから何の障害もなく素直に零れる言葉。
耳で聞いた直後にしまったと思っても遅かった。
名前はきょとんとして瞬きをした後に首を傾げる。
どうしようかと頭を掻きながら少しずつ名前に近付く。
やっと働き始めた思考回路を必死に動かす。
目の前まで来て立ち止まると名前が立ち上がった。


「ジョージ、髪の毛乱れちゃうわ」

「もう乱れてる」

「モリーさんに怒られるわよ」

「やだなぁ」


クスクス、と笑いながら名前が腕を伸ばす。
椅子に座らされ、名前が後ろに立つ。
手袋をしている指が乱れた髪の毛を直していく。
鏡に映っている姿を眺めていると、不意に昔の名前が浮かんだ。
ビルに連れられてやってきた俺より背の高かった名前。
マグル出身だけれど俺よりも知識は多くて色々教えてくれた。
あの時に頑張って勉強してるからと笑った顔は今でも鮮明に思い出せる。
あの時、きっと既に名前はビルの事が好きだったのだ。


「直ったわ」

「ねえ、名前」

「なあに?」

「ビルの事、まだ好きだよね」


ああ、情けない、とどんどん気分は落ち込んでいく。
確かに名前は今、俺との結婚式の為にドレスを着ているのに。
とても綺麗で、見惚れてしまう姿。
情けなさに顔が自然と下がってしまう。


コツコツとヒールの音がして顔を上げると目の前に名前が立っていた。
両手が伸びて来て、俺の腕を軽く引く。
されるが儘に立ち上がると、自然と見下ろす形になる。
昔の名前と重なって、こんなに小さかっただろうかという疑問が浮かんだ。


「ビルは、今でも大切な人よ。でも、今は自慢のお兄ちゃんなの。不安にさせてしまってごめんなさい」

「そんなつもりじゃ…なくて、ごめん名前」

「…マリッジブルーかしらね、ジョージ」


ふわり、と大好きな笑顔で名前が笑う。
背伸びをして子供にするように頭を撫でる。
その手を取って、両手で包み込んだ。
すっぽりと隠れてしまう小さな手。
守りたい、これから守っていかなければならない存在。


「ちゃんと、名前を守るよ。ビルにもシリウスにも負けないから」

「ふふっ、頼りにしてるわ」


お互いに服が崩れてしまうと怒られてしまうから、そっと抱き締める。
時計を見るともう少しで呼ばれる時間だった。


「名前、綺麗」


やっと言えた言葉に名前が思いの外照れるから、俺まで照れてしまう。
二人で照れて、目が合った瞬間同じタイミングで笑い出す。




(20130421)
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