良い香りに誘われて目覚めるとキッチンに立つ彼女の姿。
俺の気配に気付いたのか首だけで振り向くとにっこりと笑う。


「おはよう」

「おはよう名前」

「髪の毛跳ねてるわよ」

「直して」

「甘えないの」


俺の頬を軽く叩きながら言った名前は朝食を運ぶ。
後ろを着いて行くとその後ろをティーポットが飛んでくる。
チャーリーがくれたという茶葉の香りがした。
そのティーポットを手に取ってマグカップに注ぐ。
これは俺が雑貨屋で買ってきた色違いの物。
他の食器はどちらのとは決まっていない中でマグカップだけは決まっていた。
名前はお揃いじゃなくても良いのにと言っていたけれど、使わない時は大事にしまわれているのを俺は知っている。


「今日、仕事終わったら店に来てよ」

「ん、良いけど、フラーと買い物してからになるから遅くなるわよ」

「大丈夫。仕事しながら待ってるから」

「解ったわ」


そう言いながらトーストをかじる名前。
自然と緩んでしまう顔の理由を名前は知っている。
呆れたように笑うのを見てとても幸せだと改めて思った。


朝食を一足先に食べ終えて仕事へ行く名前を見送る。
行ってきますのキスなんてないけれど、それも彼女らしいと思う。
急に静かになってしまった部屋を見渡してトーストの残りを口に入れる。
一緒に暮らして一年になるけれど、この瞬間は未だに慣れない。
名前が居ない生活なんて散々あった筈なのに。


杖を振って朝食の片付けを始め、ちゃんと食器を洗い始めたのを確認して部屋へ戻る。
着替えて寝癖を直してキッチンへ戻れば洗い終えていた。
自然乾燥で良いだろう、と食器を並べてから鞄を持って家を出る。
店に姿現しをするとフレッドが既に商品を並べていた。


「おう、相棒!」

「珍しいな、フレッド」

「偶にはな」


ニヤリと笑ってかつての自分の部屋に上がる。
今でも使えるようになっているのはフレッドの優しさ。
名前に秘密にしたい物とか隠しておきたい物とかを置けるように。
と言っても隠し事なんてないから滅多に使わないけれど。
でも今は一つだけあって、机の上に置いてある小さな箱。
それの存在を確認してから仕事を始める為に気を引き締めた。




一日そわそわしていて、とてもじゃないけれど落ち着かない。
フラーと買い物をしてからだと言っていたから遅いだろうか。
閉店時間を迎えて静かになった店内で名前を待つこの時間は好きだ。
時計の針が進む度に少しずつ会える時間が近付く。


「ジョージ、お待たせ」

「名前!」


駆け寄って抱き締めると名前がクスクスと笑う。
名前に借りたマグルの本では買い物の荷物を男が持ってあげるというシーンがある。
魔法界では魔法で重いのもなんとかなってしまうからチャンスがない。
まして名前は優秀だから、重そうにしてるところなんて見た事がなくて残念だ。
もし俺がマグルで名前が大変そうにしていたら直ぐに持ってあげるのに。


「良い物買えた?」

「私はインク買っただけよ」

「名前も偶には服とか買えば良いのに」

「節約しなきゃ」

「俺が買ってあげる」


だぁめ、とまるで子供を甘やかすように言う名前。
子供じゃないのに、と思うけれど甘やかされるのは嫌いじゃない。
それに名前の方が一つ上でしっかりしている事は確かだし。

名前の腕を引いて店の階段に並んで座る。
本当は、ロマンチックな方が良いのかもしれない。
でも、なんとなく店が良いなと思ったのだ。
首を傾げる名前を見ると、愛しいと思う。


「名前、俺の事好き?」

「好きよ。急にどうしたの?」

「うん、実はね」


一旦言葉を切り、深呼吸をして名前の目を見つめる。
昔からこの目が好きでずっと追い掛けてきた。
今はその目が俺を見ているという事実だけでくらくらする。
現状でとても幸せなのだ。
でも人間は欲張りなのだとつくづく思う。


「名前、俺のお嫁さんになって?」


一瞬の驚きの後、仕方ないなぁと笑った名前の顔はきっとずっと忘れない。




(20120414)
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