「どう?順調かしら?」
「はい、順調です。元気過ぎちゃって、もしかしたらジョージに似てるのかもしれません」
「まあ!それは少し困るわね…私は名前に似て欲しいのに」
そう言って溜息を吐いた母さんに対して名前はクスクスと笑ってカップを傾ける。
別に、もう子供ではないから拗ねたりなんかしないけれど面白くもない。
笑い事じゃないのよ、と力説し出した母さんの話を名前はニコニコと笑いながら聞く。
それをぼんやり見ながら名前の買ったマグルの玩具を弄る。
確か、ルービックキューブという名前だった筈。
隠れ穴に帰ると名前を取られてしまうから、暇潰しだ。
「名前に似てくれたらきっとビルみたいな子に育つわ!ビルと貴女は似てるもの」
「そうですか?」
「ええ、そうよ」
「ジョージもそう思う?」
くるりと首を回して此方を向いた名前が首を傾ける。
ビルと名前、似ているかと聞かれても、どうだろう。
確かに名前はビルのようになりたいと昔からずっと言っていた。
きっと似ている部分も名前が真似した部分もあるだろう。
「うーん…どうかな?」
「似てるわ。だから私はビルと名前が一緒になってくれると思ってたんだけど」
はあ、と少し大袈裟に溜息を吐いた母さんのその言葉にドキリとした。
恐る恐る名前を見ると相変わらずニコニコと笑いながら紅茶を飲んでいる。
何て事を聞くんだと思ったけれど、名前は特に気にしていないらしい。
気にしているのはもしかしたら俺だけかもしれないけれど、やっぱり気になる。
前に感じていたような不安や嫉妬がある訳ではないけれど。
「満更じゃないと思ってたのに…残念だわ」
「ふふ、そうですね」
「でも、名前が本当に娘になってくれて嬉しいわ。今日は夕食食べていってちょうだいね」
「はい。お手伝いします」
「あら!良いのよ!ジョージにやって貰うわ」
ね、とにっこり笑った母さんを手伝う為に立ち上がった。
持っていたルービックキューブを名前に渡す。
頑張って、というその言葉に親指を立てて答える。
手を繋いで暗い道を杖の灯りだけを頼りに歩く。
勿論名前が転んだりしないように気を配りながら。
「ルービックキューブ、結局揃わなかったわね」
「あんなの魔法使えば直ぐだよ」
「それじゃ駄目よ。自力で解かなきゃ」
今はポケットにしまわれている色がバラバラのルービックキューブ。
あれをあっという間に戻す事が出来るなんてマグルは凄い。
何か法則があるらしいけれど、生憎俺にはさっぱりだった。
「この子は出来るようになるかしら」
「名前に似たらきっと出来るよ」
「ジョージは私に似て欲しいの?」
そう聞かれて頭に浮かんだのは初めて会った時の名前。
少し緊張していたけれど笑った顔がとても可愛くかった。
そんな子が生まれたら、俺は間違いなく親馬鹿になる。
「名前に似て欲しいな」
「あら、私はジョージに似て欲しいけど」
俺に似たらどうなるだろう、と小さな頃を思い出す。
悪戯をして、パースやロンをからかって過ごしていた。
顔が俺に似たとして性格が名前なら問題ないだろうか。
自分そっくりな顔が真面目に勉強している。
その光景を思い浮かべると何とも言えない気持ちだ。
「でも、元気で生まれてきてくれたら充分だわ」
そう言って微笑んだ名前を見て足を止める。
繋がっていた手が引っ張られた事で名前が振り向いた。
不思議そうな顔で俺を見上げている。
その頬に手を添えると冷えているのが解った。
「俺、頑張って良いパパになるよ」
「ふふ、期待してるわ」
「良い旦那さんにもなる」
俺の手の上に小さな名前の手が重なる。
名前の手はすっかり冷えてしまったらしい。
温めなければ、と握ろうとしたら逆に握られてしまった。
「ジョージはもう良い旦那さんだわ。私の大好きな旦那さん」
そう言うと名前が背伸びをしてそのまま唇が重なる。
驚きで動けないでいると名前がしてやったりとばかりに笑った。
(20130715)
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