頭に何かがぶつかったせいで目が覚めてしまった。
どうやら枕元に吊してあった悪戯道具が降ってきたらしい。
ちゃんと固定していなかったからだ、と過去の自分に腹を立てる。


目が覚めてしまった事だし、何か飲みに行ってまた寝よう。
すやすやと眠っているジョージの頭上を見て首を傾げた。
同じ様に吊されているのに、何故ジョージの方は落ちないのだろう。
何だか癪なので思い切り揺らしてから部屋を出る。
これで落ちなければジョージは運が良いのだろう。


なるべく足音を立てないように階段を降りるけれど、やっぱりミシミシと鳴る。
途中で息を潜めて確認してみても、起きたかどうかは解らなかった。
そのままなるべく静かに階段を降りていく。
キッチンに近付くと先程まで聞こえなかった話し声が聞こえてきた。
パパとママだろうか、それなら何か用意して貰える。


何も考えずにキッチンに足を踏み入れた瞬間急いで足を戻す。
キッチンに居たのはパパとママではなく、ビルと名前だった。
何故隠れたのかはよく解らないけれど、此方に背を向けている二人は気付いていない。


こっそり見つからないように顔を少しだけずらして二人の様子を伺う。
何かを読んでいるのか時々紙が擦れる音が聞こえてくる。
声を抑えているらしく、何を話しているかはハッキリと聞こえない。
ただ、偶にお互いに顔を見合わせた時に見せる表情はとても楽しそうだ。
何より、名前のあんな表情は僕の前ではしないし見た事もない。
幸せで嬉しくて嬉しくて堪らない、という感じの笑顔。


カタン、と音がして同時に二人が振り向く。
同じく音の出所を見ると足元に火掻き棒が倒れていた。


「フレッド、起きてたのか?」

「目が覚めた」

「ホットミルク淹れてやるよ」


ビルはそう言って立ち上がり、マグカップを取りながら杖を振る。
名前の目がビルを追い掛けるのを見ながらビルが座っていた場所に座った。
机の上に置かれていたのはこの間ダイアゴン横丁で買った新しい教科書。


「珍しいわね、フレッドが目が覚めるなんて」

「明日は雨かも。それより、もう勉強してるの?」

「うん、予習」


にこっと笑って名前は教科書を捲った。
それと同時に目の前にマグカップが置かれる。
温かいそれを持つと知らない間に冷えた指先が温まっていく。
ことり、と名前の前にも同じマグカップが置かれた。
お礼の言葉と同時にまた名前はふわりと微笑む。


「ああ、こんな時間か。名前もフレッドもそれを飲んだら寝なくちゃ」

「え?でもまだ続きが」

「名前、まだ勉強するつもりなの?パースじゃないんだから」

「続きは明日ね。それからフレッドは少し教科書を読んだらどうだ?」


ビルは僕達の部屋に買ってそのままになっている教科書を知っている。
勿論僕もジョージも全く開いた事はないから綺麗なままだ。
一部、ビルとチャーリーのお下がりで綺麗じゃない物もある。
けれどこれ以上汚くなる事はないだろうというのが僕達の考えだ。


ビルは特に口煩くは言わないからもう読めとは言わないだろう。
それでも教科書のある場所からは離れた方が無難な気がする。
それに、今のキッチンは何だか、居心地が良くない気がするのだ。
慣れ親しんだ我が家のキッチンの筈なのに。


「御馳走様。僕は部屋に戻るよ」


一気に飲み干して空になったマグカップを流しに置いて足早に退散する事にした。
後ろから二人分のおやすみが聞こえてきて、振り向いて手を振る。
同じように僕に向かって振り返す二人の笑顔はいつもと同じに見えた。




(20130616)
ホットミルクの違和感
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