靡いて乱れた髪の毛を直しながらマフラーも巻き直す。
吐き出した息は白くなり、次の瞬間には消えて見えなくなった。
別に特別何かがあった訳でも今が天文学の授業でもない。
強いて言うならば眠れなくて校内をうろついた結果辿り着いた。
誰かに見つかれば減点されてしまうのは承知の上。
けれど幸い誰にも見つかる事はなかった。
もう一度息を吐き出すと同じ様に白くなった後、消える。


「悪い子だな」


突然聞こえた声に慌てて振り向く。
けれどそこに居たのは先生ではなくチャーリーだった。
マフラーを巻いて半分顔が隠れているけれど、その顔は笑っている。


「監督生様に見つかっちゃったわ」

「全くだ。減点されたいか?」

「えー…嫌だわ」


クスクス笑いながら隣に座ったチャーリーの指が頬に触れた。
冷たいな、と呟いた声に思わず頬を擦り寄せる。
また笑い声を上げるチャーリーはそのまま頬を包むように手を添えた。


「眠れないのか?」

「うん。目が冴えちゃって」

「寒いだろ」


チャーリーのゴツゴツとした手が頬を優しく擦る。
摩擦で少しだけ暖かくなった頬を摘まれた。
顔を見るとチャーリーは楽しそうに笑っている。
マフラーに隠れていた顔は今は全て見えていた。


「チャーリーは、どうしたの?」

「何となく…かな。名前に呼ばれた気がして」

「呼んでないわよ?」

「呼ぶならビル呼ぶだろ」


ニヤッと笑ったチャーリーの腕に軽くパンチをする。
ははは、という笑い声と共に白い息が消えていく。
マフラーを引っ張って顔を隠していじけているといきなり頭を撫でられた。
それどころかチャーリーの手は私の髪の毛をぐしゃぐしゃと乱す。


「さ、帰るぞ」


先に立ち上がったチャーリーの手に引かれながら立ち上がる。
そのまま乱れた私の髪の毛を直してくれたと思ったら杖を取り出した。
その杖が私に向けて振られると冷たい物が流れていく。
身震いをすると自分の手が周りと同じ色になっているのが見えた。


「チャーリー、これ何?」

「目眩まし術。まあ、バレにくくはなるだろ」


チャーリーは同じ様に自分にも術を掛けると私の手を握る。
その手を握り返して静かな城の中を歩く。
一人の時に感じていた冷たさは今は感じない。
誰かが居るという事もあるし、相手がチャーリーだという事もあるだろう。


談話室に入るとまたチャーリーは同じ様に杖を振った。
先程は冷たさだったけれど、今度は熱いものが流れていく。
そのままチャーリーは暖炉に火を点けて手招きをする。
ソファーに座るととても暖かくて冷えた指先を擦りあわせた。


「冷えた冷えた」


そう呟きながらチャーリーが暖炉に両手を当てる。
マフラーもローブも脱いだチャーリーは今はセーターを着ているだけ。
胸にCと書かれているからきっとモリーさんのお手製なのだろう。
茶色の瞳に映った暖炉の炎がゆらゆらと揺れる。


「ビルが居なくて寂しいか?」

「んー…うん、寂しいけど、寂しくない」

「どっちだよ」


くすくす笑ってチャーリーは杖を振った。
するとマグカップが二つ現れて、一つを受け取る。
マグカップには温かいココアが入っていた。
両手で包み込むと掌からじんわりと熱が広がる。


「居なくて寂しいけど、手紙をくれるし、クリスマスには会えるから寂しくない」

「そうか」

「それに、チャーリーも居るし」

「俺よりフレッドとジョージと居る方が多いだろ」

「ん、確かにね」


賑やかなフレッドとジョージを思い出すと自然と口角が上がった。
いつも悪戯をしてモリーさんやフィルチさんに怒られている。
ホグワーツに入ってからはリーも加わって更に毎日楽しそうだ。


「今度眠れない時は箒に乗せてやるよ」

「本当?」

「ああ。約束だ」


にこりと微笑んだチャーリーに私も笑顔を返す。
眠れない時なんて来ない方が良いのに、今はその時が楽しみ。




(20130604)
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