最初はあのオルコットの隣に居るグリフィンドール生というただそれだけ。
調べろと言われた血筋が直ぐ解って、いつものように穢れた血と言ったって構わない筈だった。
でも、余りにも僕に好意を向けてくるから、髪の毛が綺麗だと嬉しそうに褒めるから。
今まで近付いてきた大体の人間はマルフォイの名前に付いて来た付属品のようなもの。
僕自身もそれを良しとしていたし、それは当たり前の事だと疑う事すらしなかった。
マルフォイ家は代々純血の家系で特別なのだと両親から教わって育ったのだし。


好きだとか、可愛い顔が台無しだとか、名字はそればかり言う。
何度構うなと言ったって何度でも声を掛けてくる。
いつでもマルフォイ家の事なんか一切口にしなかった。
それが不思議で仕方なくて、でもそれが嫌とも思わなくて。


図書館の少しだけ奥に行った席、名字はいつも其処に居る。
周りに余り人が居らず、どうやらお気に入りの席らしい。
別にいつも確認している訳ではなく、見掛けるのがいつも其処だというだけ。
窓の外を見ていたから、控え目に机を叩くと振り返ってへらっと笑う。


「どうぞ」


隣の席で本を読むフリをして盗み見る。
雑談に返事をしながら時折ページを捲った。
何て事はない、特別な力を持っている訳でも純血でもない。
マグル生まれはどうあるべきかあんなに言われたのに。
侮辱するのなんて簡単な筈なのだ。
不意に振り返って目が合った事に少しだけ動揺する。
名字の目は何だか苦手なのだ。


「僕は純血だ」

「知ってるわ。私はマグル出身ね」

「…ああ」

「でも、血はどうでも良いと思わない?」


全く思わない、と否定すれば良かったのに僕の口からはそんな言葉は出ない。
名字にどうしてマグル生まれの血は穢れているのか説明出来るかと言われても答えは持っていなかった。
魔法族の血が尊い理由だなんて昔から一度だって聞かされた事はない。
挙げ句名字は自分だってマグルの純血なのだと言い出した。


「お前の言う事は僕には解らない」

「今はただ聞いてくれるだけで良いわ。困らせてしまってごめんなさい」


そう、僕には名字の言う事は解らない。
いつもみたいに流して嫌味でも言い返してやれば良いのだ。
それなのに、何故か言葉を発しようとすると声が出ない。
ポッターやウィーズリー、グレンジャー相手なら幾らでも出て来ると言うのに。


「明日から夏休みね」


名字は先程までとは違い暢気な調子で呟く。
それに思わず顔を上げるとにこにこと笑っている。
先程までの真剣な口調が信じられない。


「暫くドラコの髪も見られないのね」

「…別に見られなくたって良いだろう」

「あら、ドラコに会えなくなっちゃうもの。嫌だわ」


また、躊躇う事もなくそういう事を言い出す。
自然と眉間に皺が出来たのが自分でも解る。
嫌悪感からではないけれど、その原因は解らない。
それに嫌味を返そうという気にもならないのだ。


「寮に戻る」

「じゃあ途中まで一緒に行くわ」


声を掛けるよりも前に本を返してくると消えてしまう。
置いていっても構わないと思うのに、その気にならない。
大体、僕はスリザリンで名字はグリフィンドールだ。
パーキンソンに見られでもしたらまた面倒な事になる。
そうだ、迷わずに帰ってしまえば良いのだ。


「お待たせ。行きましょう?」

「あ…ああ」

「どうしたの?」

「別に」


そっけない態度だと自覚はあるのに名字はにこにこしている。
仕方なく歩き出すと隣をそのままの顔で歩き出す。
この名字のにこにことした顔はどうも調子が狂う。
居心地が良いような悪いような、とにかく全てが解らない。




(20130510)
不可解な対象
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