今日は全くと言って良い程仕事に集中出来ない。
ボーっとしてしまって何だか心に穴が開いたような気持ちになる。
けれどお客様の前ではそんな事を出すなんて事はしない。
勿論それは相棒や、俺をよく知る相手じゃなければ見抜けないだろう。


そんな状態だから一日のうちに何度も相棒に背中を叩かれた。
申し訳ないとは思うのだけど、原因がさっぱり解らない。
どうしようもなく一日を過ごして食事の支度を始めようとした時だった。


「俺は要らないぜ。アンジェリーナとデートだからな」

「また家に来るのか?」

「いや、今日は向こうだ」


いそいそとローブを着て暖炉から姿を消す相棒。
作る気も失せてしまい、手近にあったパンにハムとチーズを挟む。
サンドイッチと呼べるかどうかすら危ういそれを頬張る。
咀嚼しながら先程のデートという単語を思い出した。


アンジェリーナは俺とも面識があるから遠慮なく家へ来る。
同級生に会えるのは勿論嬉しいけれど、気まずくも感じていたり。
本人達は気にしないのだろうけれど此方としてはお邪魔虫な気がして仕方がない。
そんな時は決まって名前に会いたくなって、夜遅くだろうと行ってしまう。
勿論、会いたい気持ちはいつでも持っているけれど。


写真立ての中にある、ビルが撮った写真。
俺には見せた事のないビルに向ける顔。




音を立てないように忍び込むなんて昔から簡単な事。
怒られる事は解っているけれど、会いたくて来てしまった。
ベッドの前に座り込んで眠っている名前の顔を眺める。
やっと振り向いてくれて、捕まえた彼女だけれど、不安がない訳じゃない。
名前の一番はやっぱり、昔も今もビル。
グリンゴッツへの就職を聞いた時も直ぐ不安になった。
ビルもフラーも居る場所は名前には辛いんじゃないか。
けれど名前は大丈夫だと綺麗に笑うから、何も言えなくなってしまった。


「名前」


起こさないように、けれど少し起きて欲しい気持ちも込めて呼ぶ。
声を聞きたいし名前を呼んでも欲しいし、抱き締めたい。
名前の前ではかっこつけたいのに余裕がなくなってしまう。
起こさないように気を付けながらベッドに潜り込んだ。
怒られるだろうな、と思いながら寝ている名前を抱き締める。
朝起きたらちゃんと怒られて、それから名前の笑顔が見たい。




(20130409)
眠り姫
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