初めて会った時は何て事のない小さな女の子。
そして暫く見ていたらビルがとても可愛がっている。
よく勉強を見てあげていたし、何かと気にかけていた。
名前も名前でビルを見つけると笑顔になる。
まるで蕾が開くのを早送りで見ているかのように。
自然と名前と会話をする事も増えて、どうやらビルの事が好きなのだと解った。
幼い物なのかとも思ったけれどそれとは違うらしい。
そして、ビルが名前をどう思ってるかにも気付いてしまった。
気付かなければ良いのに、歳の近い兄弟だからか気付いてしまう。
いつか名前はビルに告白するのだと言っていた。
いつからかその結果が変われば良いと願っていたけれど、叶わなかったらしい。
昔ルーマニアに来いと言った意味も頭の良い名前は気付いただろうか。
案外平気なのだと呟く名前は本当に平気そうに見える。
けれど以前のような明るさは感じられず、無理をしているような気がした。
名前に甘いのは自覚しているし、きっと名前も気が付いているだろう。
昔からずっと妹のような存在なのだ、甘くもなる。
「紅茶淹れてやるよ」
「本当?嬉しい!」
大して上手くもないのに、何故か名前は俺の淹れる紅茶が好きだ。
こうして離れてしまった今、名前がルーマニアに来ているなら良い機会。
準備をしている俺の手元を見て嬉しそうににこにこしている。
紅茶だけはビルが淹れるより美味しいのだと言っていたのを思い出した。
カップに注ぎ、目の前に置けば昔のような無邪気な笑顔で腕を伸ばす。
「チャーリーの紅茶はやっぱり美味しいわ」
「そうか」
頷いてあっという間に空っぽになったカップにお代わりを注ぐ。
この嬉しそうな顔が曇るのだから、ビルという存在は名前の中でとても大きい。
今は皆と一緒だろうから大丈夫かもしれないけれど、一人になったら大丈夫だろうか。
その時、恐らく側に居てやれない自分に少しだけ腹が立つ。
「なあ、名前」
「ん?」
「いつでもルーマニアに来て良いんだからな」
「来られたら、嬉しいんだけど」
そう困ったように笑いながら言ってカップを傾ける。
騎士団の仕事がある限り、簡単には来られないだろう。
名前が仕事を放ってまで逃げる訳がない事も勿論知っている。
けれど、逃げ道位は用意してやりたいのだ。
此処にはビルは居ないし、俺とシャロンが居る。
「私は大丈夫。シリウスもリーマスも居てくれるし、チャーリーも居るもの」
「ああ、ジョージも居るよな?」
「…それは、そうだけど」
途端に目が泳ぎ出す名前を見て思わず頬が緩む。
ジョージは相当名前の事が好きらしく、俺やビルにも嫉妬する。
もし名前が頷けば、ジョージは名前の事を必ず幸せにするだろう。
それも悪くないなぁ、と名前には申し訳ないけれど思っていたりする。
一番尊重すべきは名前自身の気持ちなのだけど。
「まあ、頑張りすぎるなよ。薬だって諦めてないんだろ?」
「諦めてないわ!チャーリーの火傷の痕、絶対消すんだから!」
「楽しみにしてるよ」
「うん、楽しみにしてて」
そう言って、ふわっと名前が笑う。
最終的にこの笑顔が見られるなら、それが一番の結末じゃないだろうか。
(20130409)
小さな女の子