「名前、聞いてちょうだい!」

「わっ!」


いきなり姿現しの音とともに扉が開き、聞こえてきた声。
紅茶を淹れていた途中だった私は驚き過ぎてもう少しで落としてしまうところだった。
一旦ポットを置いて声の主、ドーラを椅子に座らせてから紅茶をカップに注ぐ。
ドーラの腕の中にはもう直ぐ一歳になるテッドが抱かれている。


「驚いたわ、ドーラ」

「ごめんごめん。名前に聞いて貰いたくて」

「紅茶で良いかしら?テッドは、ジュースを飲む?」

「うん、オレンジジュースが好きなの」

「あら、私と一緒だわ。じゃあ、とっておきをあげるわ」


ドーラには紅茶を、テッドにはオレンジジュースを目の前に置く。
するとテッドがにっこり笑って髪の毛がピンク色に染まった。
嬉しそうにマグカップに手を伸ばす姿を見ると私までにこにこしてしまう。


「これ、手作り?」

「そうよ。ジョージがオレンジを沢山買ってきたから」

「へえ!凄いね!」

「本を見ながら、よ」


ドーラがオレンジジュースを飲んだ瞬間、テッドの髪が青くなり、泣き出した。
慌ててドーラがマグカップを返すと一口飲んでまたにっこりと笑う。
赤ちゃんのご機嫌はころころと変わるのに加えてテッドは髪の色が変わって面白い。
いつまでも見ていても飽きなさそうだ。


「それで、何があったの?」

「そう!そうなのよ!テッドがね、リーマスって言ったのよ!」


喜ぶと髪の色が変わるのは間違いなくドーラ譲り。
いつものピンク色がより鮮やかになってテッドを撫でている。
二人とも今はピンク色で誰がどう見ても親子だと解るだろう。


「リーマス、喜んだ?」

「それがね、あの人今日は仕事で居ないのよ」

「あら、それは残念だわ。きっとリーマスがっかりするわね」

「間違いないわ。ビデオカメラがあれば良かったのに」


しゅんとするドーラは無意識なのか、テッドの頭を撫で始めた。
その二人が何だかとても微笑ましくて思わずカメラに手を伸ばす。
バレないようにこっそりシャッターを何回か切る。
この写真は現像したらリーマスに送ってあげよう。


「今日ジョージは?お店?」

「うん。お昼までって言ってたけど、まだ帰って来ないわ」


私に向かって両手を伸ばすテッドを抱き上げて膝の上に座らせた。
前に会った時よりも少しだけ大きくなったような気がする。
子供の成長はあっという間だと聞いていたけれど、今実感した。
小さな両手を握って上下に動かすだけでテッドは嬉しそうに笑う。
笑うと目元がリーマスに似ているような気がする。


「二人のお店、忙しいんでしょ?寂しくない?」

「んー…特には。夜には帰ってくるし、私も働いてるし」

「休み合わないんじゃない?」

「それは仕方ないわよ。ジョージ達のお店は休日こそ混むんだもの」


ねえ、テッド?と問いかけるとにっこり笑ってうんと頷く。
可愛くて堪らず抱き締めて頭を何度も撫でる。


「それに今日はドーラとテッドが来てくれたから全然寂しくないわ」

「本当?じゃあ来て良かったよ。ねえ、テッド」

「うん!」


やっぱりテッドはとっても可愛くて、今日ちゃんと帰せるだろうか、なんて思ってしまった。




(20130901)
お留守番の日
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -