いつものように図書館でレポートを書いていたらいつものように机を叩く音がした。
顔を上げるとそこにはやっぱりいつものようにドラコが立っていて隣を指差す。
「隣、良いか?」
「ええ、どうぞ」
ドラコは音を立てないように椅子を引くと腰を下ろして持ってきた本を開いた。
今日はどうやら魔法史の本を読むらしい。
中世の魔法史と背表紙に書かれている。
いつもは私の教科書か小説を読むのに、珍しい。
静かな図書館で二人しか居ないこの席では羽根ペンの音とページを捲る音だけが響く。
偶に近くを通りかかる生徒の足音が聞こえてきたりもする。
けれど基本的に静かなこの空間はレポートが捗るからとても好きだった。
書き上がったレポートを見直してから乾かして丸める。
それに合わせたようにドラコにトントンと肩を叩かれた。
「これ、やる」
振り向いた瞬間に手を取られ、その上に何かが振ってくる。
慌ててもう片方の手を差し出して受け止めると手の中には色とりどりの包み紙があった。
「なぁに?」
「僕のお気に入りなんだ。名前に、やる」
「…じゃあ、ちょっと早いけど大広間行きましょう?」
「え?」
「だって、此処じゃ食べられないから」
ハッとしたような表情を浮かべたドラコは慌てて本を戻しに走っていく。
出口でドラコと合流するとドラコはやけにキョロキョロと辺りを見回す。
やっぱりスリザリンのドラコがグリフィンドールの私と居るのは見られたらマズいのだろう。
「ドラコ、そこのベンチに座る?」
「ああ、そうだな」
見つからなさそうな場所にあるベンチに並んで座った。
ドラコが落ち着くようにと一応簡単な人除けの魔法も掛ける。
ポケットから先程ドラコに貰った包み紙を出してベンチに置いた。
何となく赤色を選んだ自分に苦笑いをしながら包みを開く。
すると中から出てきたのは包み紙と同じ赤い色をしたチョコレートだった。
「綺麗な色だわ。良い香り…苺ね?」
「ああ、美味いぞ」
口の中に放り込んだ瞬間苺の香りが鼻から抜ける。
噛むと苺の甘酸っぱさが舌の上で広がった。
不安そうに此方を見るドラコに笑顔を向けると安心したようにドラコも笑う。
黄緑色のチョコレートを手に取ってそれをドラコの口元に持っていく。
躊躇ったように目を泳がせてからドラコは口を開いてチョコレートを食べる。
「美味しい?」
「ああ…美味い。マスカットだ」
耳まで真っ赤なドラコが可愛くて頭を撫でると俯いてしまった。
けれど、それも一瞬で顔を上げたと思えば包み紙を指差して味の説明を始める。
嬉しそうな様子に私まで嬉しくなってしまって次々とチョコレートを放り込む。
どれもとても美味しくて流石はドラコのお気に入りだけある。
「名前、気に入ったか?」
「うん、とっても。甘過ぎないから幾つでも食べられそう」
「そうか。良かった」
ピンク色のチョコレートを口に入れると桃の香りが広がった。
見た事のないメーカーだから魔法界のお菓子なのだろう。
口に入れた瞬間に香りが広がる魔法が掛かっていそうだ。
包み紙をしみじみ眺めているとやはりそういう文章が書かれている。
「気に入ったなら、いつでもプレゼントしてやる。好きな味があったら言ってくれ」
「ふふ、有難うドラコ。でも偶に、ドラコが買った時に余ったらで良いわ」
「え?気に入らなかったのか?」
「そうじゃないのよ。嬉しいんだけど、私にはドラコがこうやって話してくれるのが一番のプレゼントだわ」
私の前でふんわり笑って嬉しそうに話すドラコ。
それがこのチョコレートより何倍も嬉しい。
頭を撫でると恥ずかしそうに俯く姿も、図書館で一緒に過ごす時間も。
「…名前は変わってるな」
「そう?」
「ああ」
ドラコの青白い手がピンク色の桃のチョコレートを摘む。
その顔は何だかとても嬉しそうに見えた。
(20130814)
隣で笑う幸せ者