帰って良いと言って意識を手放した名字。
けれど微熱がある事を知ってしまったし、それにこの部屋は怪しい。
誰かの部屋のようではあるけれど誰の部屋でもない気がする。
何せ扉が消えかかったのだから、何が起こるか解らない。


眠っている名字に毛布を掛けてやり、顔に掛かった髪の毛を払う。
どうしてこの僕がこいつなんか、と思うけれど今出て行く訳にはいかない。
これは決して心配ではなく、このまま名字に何かがあれば気分が悪いだけだ。
マルフォイ家の長男のこの僕がこいつの心配をする訳がない。
そもそも、いつもはオルコットや双子のウィーズリーと居るのに、どうして今日は一人だったのか。
クィディッチの練習を終えて城に戻るとふらふら歩くこいつが目に入って何故か追い掛けてきてしまった。
追い掛けなくてもオルコット達に嫌味と一緒に伝える事だって出来た筈なのに。


「お前はどうして僕に構う?マルフォイ家だからだろう?」


答えなんて返ってこない事は充分解っている。
起こさないように声を抑えたのは自分だ。


いつもニコニコと笑いながら声を掛けてきてはペースを乱していく。
ハロウィンには抱きつかれたし、本屋では落ちてくる本から庇われた事もある。
けれどあの日の名字はどちらかと言えば怒っていた。
当たり前だった穢れた血という言葉は自然と口から零れ落ちる。
クィディッチチームのメンバーが笑って、それで終わる筈だったのに。
ニコニコとした笑顔ではなく厳しい顔で頬を摘まれた。
そして呼びたいのならば呼べと言った声はいつもよりも厳しい声。
呼んでやる事だって出来た筈なのに、あの時ショックを受けたのは何故だろう。


「名前・名字」


呟くように名前を呼んで額に手を当てた。
通常より高いだろう体温がじんわりと伝わってくる。
普段の体温なんか知らないけれど、明らかに熱い。
それに、いつも僕に触れる手はこんなに熱くなかった。




目を開くと目の前で微笑む名字。
自分の腕が名字の左腕を抱いているのに気付き、慌てて離れた。
頭が真っ白でパニックを起こしている間に名字は紅茶を淹れてテーブルにクッキーを置く。
流されるままに向かい合わせで座り、紅茶とクッキーに手を伸ばした。
紅茶を淹れるのは得意ではないと言っていたけれど、不味くはない。


クィディッチ、マグルの話、とよく次から次へと話が出てくるものだ。
それに何故か付き合って聞いている自分も同じ位不思議に思う。
マグルの事を話して聞かせるくせに、差別をするなとは言わない。
押し付けられたクッキーを見つめていたらいきなり頬を突つかれた。


「お前…体調は良いのか?」

「寝たらスッキリしたわ。有難う」


無邪気に、本当に嬉しそうに笑うから、顔を背ける。
心配している訳じゃない、こんな気持ちは何かの間違いだ。




(20130702)
触れ合う体温
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