ビルが少しでも長持ちするように、と魔法を掛けてくれた薔薇も萎れてしまった。
花はいつか枯れてしまうのは解っているけれど、少しだけ寂しい。
薔薇の無くなってしまった花瓶をしまって小さく小さく息を吐いた。
気持ちを切り替えよう、と引き出しからメジャーを取り出してビルを呼ぶ。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと手広げて」
「こう?」
「そうそう。ジッとしててね」
メジャーをビルの体に当てたり巻いたりしてサイズを測り、メモしていく。
不思議そうな顔をしながらもビルは私が言う通りジッとしている。
最後に首回りを測るとメジャーを元通りにしてボールペンへ持ち替えた。
「ん、有難う」
「何か作るの?」
「編み物をしようかと思って」
「編み物得意なの?」
「うーん…昔ちょっとやった位だからどうだろう」
メモしたサイズにどれ位プラスしようか考えながら頭の中でビルに合う色を考える。
赤褐色なんか良いかもしれない、と数字の横に書き記す。
お店にその物が無くても近い色を探してみれば良いだろう。
「もしかして、セーター?」
「当たり。前にお母さんが毎年作ってくれるって言ってたでしょ?」
「うん」
「でも、今年は貰えてないなぁって思って」
編み物を全くやった事が無い訳ではないし、季節的には少し遅いかもしれないけれど着ない訳でもない。
そうと決まれば早くお店に行って毛糸を買ってこなければ。
立ち上がると慌てたようにビルも立ち上がり、一緒に行くとコートを羽織った。
ビルが選んだ茶色の毛糸を編みながら偶にキッチンのビルを盗み見る。
機嫌が良さそうにお好み焼きを焼いている姿は見ているだけで楽しい。
やはり頭が良いビルは口頭で説明しただけで理解出来てしまう。
材料を切って混ぜて焼くだけとはいえその手付きに一切迷いが無い。
「ん?」
ふと顔を上げたビルと目が合い、何でもないと伝えればまたビルはフライパンに視線を落とす。
ビルがお好み焼きを焼く音と香り、楽しそうな気配を感じる中でセーターを編む。
特別な事がある訳じゃないけれど、ゆっくり時間が流れていてとても居心地が良い。
(20140330)
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