余りの寒さに目が覚めて、起き上がると窓の外は真っ白だった。
部屋の暖房を付けてからセーターとコートを着て、マフラーと手袋、イヤーマフラーもしてベランダへ出る。
思っていた以上に積もっている雪を掬い上げると両手でしっかりと固めながら丸くして柵の上へ置く。
それをもう一度繰り返して先程の雪玉の上に乗せれば雪だるまの完成。
もう一つ作ろうと雪玉を作っていたら窓が開く音がした。


「おはよう」

「あ、おはようビル」

「雪だるま?」

「うん。雪が積もったから、小さいけど」


完成した二つ目の雪だるまを見せる。
それを一つ目の雪だるまの横に並べてまた雪を掬う。
するといつの間にかコートを着たビルが隣に立っていた。
こちらもいつの間にしたのか手袋をした手が雪へ伸びる。
小さな雪だるまが一つ一つ増えていく。
このまま柵の上を埋め尽くしてしまおうか。


「雪、此処はあんまり降らないんだね」

「え?ああ、そうだね。イギリスに比べれば降らないよ。北海道とかは、沢山降るけど」

「名前は、寒いのは苦手?」

「んー…得意ではないかな。ビルは?」

「同じ」


ふと目が合って、同じタイミングで笑う。
ああ、ビルが笑っているな、と思ったら、途端に嬉しさが増す。
また新しく出来上がった雪だるまを柵に乗せる。


「名前、話聞いてくれる?」

「ん?なあに?」


雪だるまからビルへ視線を移すとビルはジッと手の中の雪を見つめていた。
つい先程まで確かに笑顔だった筈なのに、今は真剣な表情。
青色の瞳に映る雪がやけに綺麗に見える。
大きくビルが息を吐いた。


「この間、少しの間だったんだけど、エジプトに帰ったんだ」

「え?」

「夢かと、思ったんだけど、でもあれは間違いない。エジプトにある部屋だった」

「…うん」

「もしかしたら、近いうちに、帰れる、のかも」


帰れるかもしれないという事はビルにとって嬉しい事の筈。
それなのに、今のビルは今にも泣いてしまいそうに見える。
雪だるまの方へ向けられている青色の瞳は、何を見ているのだろう。
そして、そんな様子に何処かで喜ぶ自分が居る。
こんなのは、良くないのに。


「ビルの世界は、変わってなかった?」

「え…あ、うん。変わってなかった。何も、変わってなかったよ」

「そっか」


手を伸ばして、ビルの手をそっと握る。
手袋をしていて良かったと思う。
今の私の手はきっと冷たくなってしまっている。
ビルの手も、きっと同じように冷えてしまっているだろう。


「朝ご飯にしよっか。まずはちゃんと食べなきゃ」


ね?とビルの顔を覗き込むと青色の瞳に自分が映っているのが見える。
小さな声だったけれど、確かにビルはうんと言ってくれた。




(20140223)
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