ビルは背中は大きい方では無い、と思う。
背は高いけどがっしりとしている訳じゃ無い。
ひょろっとしているから大きく見えるのだろうか。
私なんかと比べたら断然大きいのだけど。


「名前?どうかした?」

「え?」

「何か、視線感じたから」


くるりと振り返ったビルはそう言って首を傾げる。
見ていたと言えば見ていたけれど、半分は無意識だ。
用事があった訳では無くて、首を横に振って何でも無いのだと告げる。
そう?と言ってビルは再び洗濯物を畳み始めた。


仕事を終えて伸びをしながらキッチンへと向かう。
年始はいつも忙しいけれど今年は不思議と余裕がある。
良い事なのか良くない事なのか、複雑な所だ。
お疲れ様、と言うビルに返事をしながら冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出す。
キャップを開けながら振り返るとお鍋を掻き回すビルの背中が目に入った。
そう広くないキッチンの中だから、手を伸ばせば簡単に届く。
手を伸ばしてみようか、と思った瞬間ビルが首だけで振り返る。


「どうしたの?お腹空いた?」

「あ…う、うん。今日は何?」

「名前が食べたいって言ってたシチューだよ」


誤魔化すようにお鍋を覗き込むととても良い香りがした。
香りというのはどうにも食欲を刺激する。
一気に空腹になったように訴えてくるお腹を液体で騙すようにペットボトルを傾けた。




ボーッとテレビを眺めていたら隣に現れた人の気配。
勿論確認しなくたってこの家には私とビルしかいない。
お風呂上がりでシャンプーの香りが漂ってくる。
ビルの髪の毛が濡れていないのはいつもの事。
何気なくビルの方を見るとビルは真っ直ぐテレビを見ていた。
青い瞳も赤毛もとても綺麗だと思う。
カラーコンタクトや染髪剤による物とは違う自然な色。


「名前」


名前を呼ばれてハッとしていつの間にか伸びていた手を引っ込める。
無意識のうちに伸びていた手を見られてしまった。
チラリとビルを見上げると、伸びてきた手に頭を撫でられる。


「ビルって時々私より年上みたい」


そうかな?と言ったビルは立ち上がってキッチンへ向かった。
やかんを手に取ったのを見ながら魔法でやってしまえば良いのに、なんて事を思う。
何気なく後を追い掛けて隣に並んでみる。
ん?と首を傾げながらもビルの手は止まらない。
何かが違う、と移動すると夕方と同じで手が届く位置にビルの背中があった。
一歩前に出て距離を詰めると手を伸ばして抱き付いてみる。


「名前?」


名前を呼ばれたけれど、返事はせずに背中に頬をくっつけた。
ぎゅっと力を込めると腕の中が一杯になる。
ああそうか、私はビルに触れたかったのか。


「ビルの背中は大きいけど大きくないね」

「何それ?」

「私より大きいよ」

「そりゃあ、大きくなくちゃ」


回していた腕が剥がされたと思ったらビルが振り返り、抱き寄せられる。
抱き付いた時とは違う、ビルに包まれている状況。
ドッグタグのチェーンが揺れて、独特な音を立てる。


「名前は、可愛いね」

「…煽てても何も出ないよ」

「本心だよ」


可愛いなんて言われ慣れていないからどんな反応をすれば良いか解らない。
そういえば昔の恋人に言われた時も同じ様に誤魔化そうとした気がする。
可愛いと言われるのは嫌じゃなくて、寧ろ嬉しいのだけど、何だかくすぐったいのだ。
恐らく赤くなっているであろう顔を見られないようにビルの胸に顔を埋める。




(20140131)
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