年始は何処も混むし、今から電話したところで宿が取れるだろうか。
血眼になって探せば何処かしらあるかもしれないけれどそんな気力も無い。
こんな事ならもう少し早く何か計画しておくんだった。
キッチンで洗い物をするビルを見ながらこっそり溜息を吐く。


結局三が日は家で過ごしてしまったし、明日からの予定も無い。
何かしたかと言われたら近所をビルと散歩して福袋を買った位だ。
ビルが今日着ているシャツはその福袋の物。
最近の福袋は中身が予め解っていたりして何だかつまらないなぁなんて思ってしまう。
解っていたら開ける時の楽しみが半減してしまうんじゃないかと思うのだけど。


「名前、どうしたの?」

「年末の自分に呆れてるの」

「またその事考えてる。名前と一緒に過ごせるだけで充分だよ」


そう言って貰えるのは嬉しいし、実際今も顔が熱くなってくる。
でも、ほんの少しだけ出掛けたかったという気持ちがあったりするのだ。
勿論、ビルと一緒に過ごせるなら何処だって幸せなのだけど。


「それに、日本って事よりもマグルの生活ってだけで僕にとっては珍しいし」

「充分って事?」

「充分って事」


手を拭いたビルが杖を振ると勝手にお皿が拭かれて棚へ戻っていく。
最後の一枚が棚に入り、扉が閉まったのを見届けてビルがソファーに座った。
と思ったら直ぐに手が伸びてきて頭を撫でられる。
床に座っている私の頭はソファーの上からだと撫でやすいのだろう。


「名前は、何処か出掛けたい?」

「そういう訳じゃ無いけど」

「僕とこうしてのんびり過ごすの嫌?」

「まさか!嫌なんて事絶対無いよ」

「じゃあ、充分だよ」


確かに、と頷くと満足そうにビルが笑った。
せっかく今は仕事が無くてのんびり過ごせている。
それを満喫しなければ勿体無い。




気が付いたらソファーに居た筈がベッドに寝転がっている。
何度か瞬きをしてから首を動かせば、隣にはビルが寝ていた。
きっとビルが運んでくれてそのまま寝てしまったのだろう。
慎重に体制を変えてビルの寝顔を眺める。
いつ見ても綺麗な顔だと思う。
普通に生活をしていたらきっと出会っていない。
英語を話せないし、こんなにかっこいい人には恋人だって居るだろうし。
そう考えると今こうして一緒に暮らして両想いで居るというのは運命なんじゃないかと思えてくる。
その運命が何処まで優しくしてくれるのかは解らないけれど、今はただ幸せだと思う。


「ビル?」

「そろそろ恥ずかしいかな」

「え!起きてたの?」


ぼんやりそんな事を考えていたら、伸びてきた腕に抱き寄せられ、そんな言葉が聞こえてきた。
起きていたなんて思わなかったから、まじまじと顔を見つめていたというのに。
バレてしまった恥ずかしさで熱が集まっていく顔を隠すようにビルの胸に埋める。


「寝たフリなんて狡いよ」

「名前の方が狡い」

「え?私?」

「暫くこのままでいさせて」


ぎゅっと背中に回されている腕の力が強くなった。
どうして私が狡いのかは解らないままだけど、まあ良いかと思える。
やっぱり、今は幸せなのだ。




(20140119)
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