仕事に余裕が出て来て暫くした頃、やけにビルが一人で出掛ける回数が多くなった。
最初は大して気にしていなかったけれど、こうも続くと不思議に思う。
夕方になると帰ってくるし、その内話してくれるだろうと気楽に考えていた。


「あ、おはよう名前。メリークリスマス」

「ええと…おはよう」


部屋の中にあるツリー、その下に置かれているプレゼントの箱。
カレンダーを見て今日が12月25日だという事を思い出した。
ああ、そういえば今日はクリスマスだったなぁと頭を掻く。
昨日までは無かった筈のツリーだとかビルがせっせとキッチンの中で動き回っているとか色々気になる事はある。
それより今はクリスマスに特に何もしない自分自身に対してしまったという気持ちが大きかった。
クリスマスなんてすっかり忘れていたからプレゼントも勿論用意していない。


「それ、プレゼント。開けてみて」

「あ、うん」


キラキラとした瞳で早く早くと急かす。
綺麗な包装紙を破らないように丁寧に開ける。
出て来たネックレスを持ち上げるとゆらゆらと揺れた。
ハートに幾つか青色の石が入っていてとても綺麗。


「これ、有難う。凄く綺麗」

「良かった。実はね、それ買う為にちょっと仕事してたんだ」

「え?」

「英会話教室で短期間働かせて貰ってて」

「あ、成程。それで最近出掛けてたんだ」

「うん、そう。秘密にしててごめんね」


苦笑いを浮かべるビルに首を横に振る。
気になってはいたけれど、こうして話してくれたのだからそれで充分だ。


「あのね、それより私今日がクリスマスって忘れててプレゼント用意してなくて…後で一緒に買いに行こう」

「え?お店やってるの?」

「うん、やってるよ…え?」


顔を見合わせて同じ様に首を傾げる。
どうにも一緒に暮らしているとついつい忘れてしまう。
ビルはイギリス、私は日本という大きな違いがある。
言葉が簡単に通じている事も関係しているのかもしれない。


「イギリスは店は全部閉まるんだ。マグルの世界では電車とかバスも止まるんだって」

「じゃあ、街は静かなの?」

「うん。マグルの世界は解らないんだけど」

「日本はお店もやってるし、交通機関も動いてるから、変な感じ。街はカップルで一杯だし」

「カップル?家族で過ごさないの?」

「日本ではクリスマスは恋人達のイベントなの」

「…変なの」


不思議そうな顔をしてビルは朝食を並べ終えた。
サラダにトーストにスープ、スクランブルエッグにベーコン。
途端に漂う良い香りに胃が空っぽだった事を思い出した。
手を合わせてとりあえずスープから口に運ぶ。
ビルの作る物はやっぱり前より美味しくなっている気がする。


「プレゼント、何が良いか考えておいてね」

「もう貰ったから良いよ」

「私、何もあげてないよ?」

「名前を貰ったから充分。それ以外は要らない」


さらりと放たれた言葉に手にしていたトーストが落ちた。
じわじわと恥ずかしさが込み上げて誤魔化すようにトーストをかじる。
ビルはいつまでもにこにこと機嫌が良さそうだ。




(20131231)
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