マフラーや手袋、はたまたニット帽なんかを手に取っては戻す。
想いが通じ合って、それなりな毎日を送っていたある日。
何故か突然聞こうと思ったビルの誕生日は今日だった。
偶然、外で打ち合わせがあるからと出掛けた帰り、先程の行為をもう一時間は繰り返している。
プレゼントを渡そうと決めたは良いものの、肝心の物がなかなか決まらない。
過去にお付き合いしていた時は何をあげていただろう、なんて考え出してしまう始末。


そもそもビルは特に物を欲しがらず、唯一欲しいと言ったのはすっかり愛用品の英和辞典。
それだって最初ビルは図書館で借りると言っていたのだ。
欲しい物を尋ねたには尋ねたけれど、返ってきた台詞は特に無い。
予想通りの言葉に少なからず落ち込んでしまったのは秘密。


冬小物はこれからあって困らないけれど、今度一緒に買いに来る予定だった。
だから手に取っては戻しているのだけど。
携帯、と提案しても必要性を感じないと言われてしまった。
ビルの姿を頭から順番に下へと思い浮かべていく。
頭を抱えたくなった時、一つの物が思い浮かんだ。
気に入ってくれるかは解らないけれど、これは良いかもしれない。




いつだってプレゼントを渡す時は少しだけ緊張する。
誕生日おめでとう、と言って渡すだけなのに。
なかなか渡せずにずるずると来てしまって、気が付けば夕食も入浴も済んでしまった。
このままでは今日のうちに渡せないじゃないか。
ビルがお風呂から戻ってきたら渡そうと決めた瞬間扉が開いた。
まるで漫画やドラマのようなタイミング。


「名前、難しい顔してどうしたの?」

「や、うん。何でも無い…事も、無い」

「何かあった?」

「うん…誕生日おめでとう」


首を傾げながら目の前に座ったビルにそう告げる。
にっこり笑ったビルに期待と不安を抱きながらプレゼントを差し出す。
やっぱり幾つになってもこういうのはドキドキしてしまう。
気に入るか解らないけど、と言った声の小ささと言ったら。


「ネックレス?」

「うん。あのね、ドッグタグって言って、ビルが此処に来た日付を彫って貰ったの」


ドッグタグには本来持ち主の個人情報、つまり名前や誕生日、血液型や電話番号なんかを入れる。
でもあの時目に入ったお好きな文字を掘りますというポップ。
お願いしてビルの名前、誕生日、そして来た日付を入れて貰ったのだ。
忘れないように、ビルが確かに此処に居たのだと証明出来るように、私と過ごした時間をビルに思い出して貰う為に。


「名前、有難う。嬉しい」


ぎゅう、と抱き締められて、ビルからは同じシャンプーの香りがした。
喜んでくれて嬉しい筈なのに、鼻の奥がツンとする。
それは冷たい空気のせいか、それとも別の何かのせいか。
誤魔化すようにビルの胸に顔を埋めると大きな手が頭を撫でる。
せっかくのビルの誕生日なんだから、こんな事ではいけない。
そう思うのに、必ず来るいつかが頭から離れなかった。




(20131224)
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