最近、名前の様子がおかしい。
勿論告白したからギクシャクするとは思った。
けれどそういう事は関係無いような気がする。
ボーッとしている事が多いし顔が赤い事も多い。
もしかしたら風邪を引いたのだろうか。
確かに最近グッと冷えてきて、名前は寒い寒いと言っていた。
こんな時魔法界に居たなら直ぐ薬を作れるのに。
パソコンに向き合ってまたボーッとしている名前を見て溜息を吐く。


とりあえず体を温める事が大事だからココアでも淹れようとキッチンへ向かう。
日本のココアは余り甘くないけれど、名前は充分甘いと言っていた。
名前は甘い物が苦手なのかと思っていたけれどそうでは無いらしい。
いつか名前が買ってきたケーキも余り甘くなかったから、日本の物自体が余り甘くないのだろう。
名前も外国のお菓子は甘いんだと言っていたし。


「名前、ココアでも飲んで」

「あ、有難う」


振り向いてマグカップを受け取った名前の顔はやっぱり赤い。
サッと顔を逸らされてしまったし、やっぱり体調が悪いのだろうか。
注意深く様子を見ていようと決めて本を開く。


とは言っても洗濯機が止まれば干さなければならないし掃除もしなければならない。
掃除は魔法でどうにでもなるけれど、洗濯物はそうもいかず、ベランダへと出る。
幸い名前のデスクはベランダの近くだから様子が窺えるのは良い事だけれど。
洗濯物を干しながら空を見ると雲が高いのが解る。
カレンダーは11月で、此処に来てからもう7ヶ月経つ。
思い浮かべる家族や友人の顔もぼんやりとしてきている。
あんなに毎日一緒に過ごしていたのに、人間の記憶なんて曖昧な物だ。
勿論顔を忘れたりする事は無いのだけれど。
皆元気に過ごしているだろうか。


「名前、ちょっと散歩してきても良い?」

「え?散歩?」

「うん。そんなに遠くまでは行かないよ」

「良いけど…気を付けてね」

「ん、行ってきます」


名前から離れたいとか、そういうんじゃない。
寧ろ名前を見てなきゃいけないと思ったばかり。
だけど、急に心細さを覚えた自分に気付かれたくない。
優しいから、調子が悪くても気に病んでしまう。
只でさえお世話になっている身だというのに。


「ビル、これ持って行って」

「時計と…これ何?」

「此処の住所。もし迷ったら役に立つから」

「有難う。行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」


パタンと玄関の扉が閉まると途端に独りになる。
名前の家から出れば本当に知らない世界。
少しだけの冒険に、覚えた心細さを紛れ込ませよう。



(20131213)
32
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -