前から観たいと思っていて映画館に観に行けなかった映画。
テレビで放送するのだと知って、これは何が何でも観なければと思った。
だから早めに仕事を切り上げて不思議そうなビルに頼んで夕食を早め、そしてお風呂にも入り準備は万端。
いつもはビルが紅茶を淹れてくれるけれど、今日は梅酒を用意してみた。
母親が作り過ぎたからと送ってきてそのまま保管されていた物。
おつまみに適当にお菓子を用意したところでビルがお風呂から戻ってきた。
「お酒?」
「うん、梅酒だよ。お母さんが作ったの」
「うめしゅ?」
「…あれ?もしかして初めて?」
「うん」
ジッと梅酒を見つめ、一口飲んだビルは美味しいと笑顔を浮かべる。
梅干しは苦手なようだったけれど梅酒はなかなかいけるらしい。
映画は音声を切り替えて日本語字幕を表示させる。
そうすればビルも私も何の問題も無く楽しめるから最近のテレビは便利だ。
内容は切ない片想いの話で、ゆっくり物語は進んでいく。
好きな人の側に居るのに友人関係を壊したく無くて主人公は告白出来ないでいる。
よくある物語の筈なのに、気が付いたら私の目からは涙が零れていく。
ビルにバレないように涙を拭いながら梅酒をチビチビと飲む。
滅多に泣かないと言うのに、お酒のせいだろうか。
「名前?」
突然名前を呼ばれてビクッと体が跳ねた。
かなり驚いた様子のビルと目が合う。
しまったと思っても涙はピタリと止まってはくれない。
「あ、ごめん。大丈夫だから」
「本当に?」
「うん。ちょっと映画に集中し過ぎちゃって」
テレビ画面では主人公が同じように涙を流している。
泣き止まねばと思い、涙を拭っているとその手を掴まれた。
そしてそのまま引っ張られて気が付けば目の前にはビルの胸。
背中を優しく撫でられて抱き締められている事を理解する。
驚いて涙が止まったのは良い事だった。
「ビル?私大丈夫だよ?」
「…僕が嫌だから」
「え?」
「名前が泣いてるのは、嫌だ」
ぎゅう、と背中に回されている腕に力が込められる。
どうしてこうなっているのだろう、と冷静な自分が考え出す。
一方で驚き過ぎて身動きの取れない自分も居る。
腕の力が弱まって、少しビルとの間に距離が出来た。
何故かビルが泣きそうな顔をしていて咄嗟に頭を撫でようと手を伸ばす。
けれど、その手は途中で掴まれてしまい、そして顔が近付く。
そっと唇が触れ、ビルと距離が出来たのを感じて瞼を開いた。
離れたと感じただけで、実際は思っていたより距離は近い。
ビルの青色の瞳に自分が映っているのが解る。
「ごめん、僕名前が好き」
(20131121)
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