起きて時計を見ると針はいつもよりも大分遅い時間を指している。
飲み慣れない日本酒を飲んだせいだろうか、もうお昼近い。
いつものように日課をこなそうと部屋を出ると名前が居なかった。
寝ているのかと思ってかなり悩んで名前の寝室を覗いて見たけれどやっぱり居ない。
とりあえず日課を、と思っても洗濯物は干してあるし食器は洗ってある。
テーブルにサンドイッチが乗っていて、その横にメモが置いてあるのを見つけた。
それは多分名前の字で、文章にはなっていないけれどちゃんと英語で書かれている。
下の方の読めない文字はきっと日本語なのだろう。
辞書を見ながら必死に書く名前の姿が浮かんで自然と頬が緩む。


サンドイッチを食べ終えて何をしようか考えていたら玄関の開く音がした。
ただいま、という声に続いて足音が近付いてくる。
立ち上がって名前の方へ向かうと少し驚いたような顔を浮かべた。
それも直ぐに笑顔になったけれど。


「お帰り」

「ただいま」

「買い物、してきたの?」

「うん、ついでにね」


買い物袋を受け取って冷蔵庫や食品棚にしまう。
横に立った名前はペットボトルに手を伸ばす。


「仕事?」

「ううん。友達に呼ばれちゃって。こっちに遊びに来てたんだけど、今日帰るから会おうって言われてね」

「そっか。ゆっくりしてきたら良かったのに」

「うん、でもビルが居るし」


きゅんとして思わず名前の頭を撫でる。
不思議そうに首を傾げる仕草に頬が緩む。
食品の整理を再開するまで名前はそのままの顔だった。
袋の中に残り一つになった時、いきなり伸びてくる手。
何だろう、と見ていると赤い小さな袋が見えた。


「じゃーん!これね、イギリスのお菓子!スーパーで見つけたからつい買っちゃった」


そう言って目の前に差し出した赤い小さな袋。
その後ろに見える嬉しそうな名前の顔。
ショートブレッドと書いてあるそれを受け取ると後ろには日本語が書かれていた。
そういえば、マグル出身の子がこんな袋を持っていたような気がする。


「見た事ある?」

「うん、多分…マグル出身の子が持ってたんじゃないかな」

「そっか。ちょっと早いけど、おやつにしようよ」

「じゃあ紅茶淹れるよ」


やった!と喜ぶ名前はメールチェックだけしてくるとパソコンに向かった。
その間にマグカップに紅茶を注いでテーブルまで持って行く。
何気なく袋を覗くと同じ赤い袋のクッキーが二種類入っていた。


「クッキーも買ったんだ」

「うん。ビルの好きなのはどれかなって考えてたら全部になっちゃった」


じわじわと広がる嬉しさを噛み締めながら袋を開ける。
一つ名前に差し出してもう一つをかじると懐かしい味がした。




(20131012)
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